無意確認生命体
「なぁ、雌舞希のクラスに、『ハルミ』って名前の奴いるよな?」
「え?」
志田は唐突にこの話を始めた。
「苗字は、んー。今のはちょっとわからんけど。ほれ、いるだろ。教卓の前んとこの席で集まって、飯食ってる奴らん中に。髪の長さが、ちょうどキミとツジのあいだぐらいの奴」
私は、こいつの口から個人を特定するような言葉が飛び出したことに少し驚いたが、
「浅瀬晴美《あさせはるみ》さん?」
とりあえず思い当たった名前を口にした。
「ん、あ! 多分ソレ! な、アイツって、普段どんな感じ?」
……何でこんなことを訊くんだろうか。
「どんな感じって? 私、まだほとんど喋った事ないし、わかんないよ。美智は結構よく話してるみたいだけど。何で? 浅瀬さんのこと、興味あるの?」
「ん? やー、そうゆうんじゃなくて。いじめられたりとか、してないかと思って」
……?
どういう意味だ?
私の怪訝そうな表情を察したのか、志田は両手を挙げて言った。
「あー、これ。一応内緒にしてほしいんだけどな」
「うん」
「アイツ、オレの妹なのよ」
それを聞いた私は一瞬意味が飲み込めず、文字通り、固まってしまった。
そして、
「……は?」
と、思わず間抜けな声を上げてしまう。
え? だって同級生で妹?
えぇ? じゃあ志田ってもしかして――。
「え。留年生?」
――あ。
……思わず指さして言ってしまった。
ところが、
「ちがうよ。オレは現役」
志田はそれを否定した。
私の顔に、あからさまなまでの疑問符が浮かぶ。
きっと私の顔は今、柏木が私と話すときによく見せる、すっかり煙にまかれたような、あんな感じの表情になっているに違いない。
それは志田にもすぐ伝わったようだった。