無意確認生命体
私には兄妹なんていないから、その間のいざこざや、志田の兄心(?)なんて到底理解できないけれど、志田の言葉の中に、暖かい、何の邪心もない愛情が含まれているのは感じることが出来た。
私は、「はあ……」と軽く溜息をつき、
「……まぁ、そんな事情なら、しょうがない……のかな。でも、なんにしたってここまで聞いちゃったら、私もさすがに無下には出来ないよ。うん。わかった。……ふふ。その手の借りもあるしね」
と、答えた。
それを聞いた志田は、
「ん。ああ、そうか。その手があった」
なんて、包帯巻きの左手を見ながら言った。
こいつが私を気遣って、敢えて手のことに触れなかったのには気付いていた。
だから私も深く触れず、返答する。
「あはは。なにそれ。シャレのつもり? 美智がいたら、みぞおちグーだよ。――でも、私なんかと、仲良くしてくれるのかな。浅瀬さん」
私がそう言うと志田はキョトンとして、次の瞬間、
「あ? っはははははははは!」
と、無礼にも笑い出し、
「キミのこと、嫌う奴なんていないって!」
……なんて言いやがった。
そして、今まで見せたこともないような、とても優しい顔になり、
「大丈夫。雌舞希なら、オレは安心してアイツを任せられる。大事なんだよ。オレにとっては、とっても。……ん、まぁ。向こうにゃ嫌われちゃってるけどさ」
と、フェンス越しに下界の風景を眺めた。
その姿は、なんだかとても優しくて、同時に少し寂しそうでもあった。
「んー。努力するよ」
私は応え、彼と同じように景色を眺める。
そこで初めて気が付いた。
――ここからは、あの病院がよく見えるんだっていうことに。