無意確認生命体
「よ~し、オッケイ!これなら校舎に入ってよし!」
私の背中をバシッと叩き、美智はようやく私を解放してくれた。
私たちが今いるのは、私たちの通う学校の校舎に隣接して建っている古い木造建物の一室だ。
この建物はいわば旧校舎と呼べる存在で、この部屋の窓から見える、隣の真新しい校舎ができる以前まで使われていたものなのだそうだ。
――といっても、それほど老朽化が進んでいると言うわけでもないらしく、現在この建物は各部活動の部室として、それぞれの部屋が使われるようになっている。
で、今いるこの部屋はテニス部の部室だ。
あの後、私は美智によって半ば拉致同然でココまで引っ張ってこられたのだった。
「ほら、見てみな」
美智はそう言うと鞄から手鏡を取り出して私に向ける。
鏡の中の私の髪は、私では絶対に再現不可能な、それこそ美容師顔負けと言っても良いほどに凄く綺麗にセットされていた。
「どうよ? あたしの従姉妹の姉さん直伝のテクは! 美容師の冠《かんむり》は伊達じゃないよ。 あの人、教えんの上手いからさ、あたしの実力もウナギ登り、上流向かってまっしぐら進行中ってなわけよ!」
「う……うん……。すごい。ありがとう。何かこれ、動いて乱れちゃったら申しわけない気がする。前に髪切ってもらったときも上手だと思ったけど、ホント。さらに腕あげたね。美智、こういうの才能あるよ」
「ははは! あんがと。ま、こんだけ素材がよけりゃあね。下手には仕上げられないってもんよ。アンタさ、ホント勿体なさすぎるって。ねぇ、せっかくこれだけ可愛らしい顔に生まれたんだよ? スタイルだって悪くないんだし。何でいつまでたってもオシャレのひとつもしないのさ? 年頃の娘でしょうが! ケバい化粧までしろとは言わないけど、せめて身支度ぐらいはまともにしろよな」
お母さんが言うようなことを同い年に言われてしまう私。
「あはは、ん。ごめん。これからはちゃんとドライヤーぐらいはあてるようにするよ」
私がそう答えると、美智はがくっと肩をおとし、
「だから、そう言うことじゃなくてだな~。……はぁ」
とまたも大仰に溜息を吐いた。