無意確認生命体
5月20日(木)
23.
「浅瀬さん、志田のこと、別に嫌ってるってワケじゃなさそうだったよ?」
あの『部室』に迎えられた日以来、どういったわけか、毎日放課後に花壇へ通うようになっていた私は、この日さりげなくこう口にした。
私と浅瀬さんとは、あの理不尽な一件から後、けっこう気軽に話せる間柄になっていた。
そして今日、彼女の方からこの話題をふってきたのだ。
「あのさ、近江さんや辻ちゃんと最近一緒にお昼食べてる男の子、いるじゃない?」
「え? 志田のこと?」
「うん、そう。……えっと、変なこと訊くけど、ごめんね? ……アイツって近江さんから見て、どんな感じかな?」
「え……? どういう意味? なんでそんなこと訊くの?」
私はわかってるくせに、すっとぼけてこんなことを言った。
「う、うーん……。アイツ、私の古い知り合いで、よく知ってる奴なんだけどね。他人にあんまり興味ないってゆうか……、人の名前とか全然覚えられない奴なのね」
「あ、うん。そうだね。本人も言ってた。美智を紹介したときも、教えた5分後には名前忘れちゃって。あの子カンカンになって怒ってたなぁ」
「あっはははは! 辻ちゃんって、日に一回は怒ってるね~。うん。でもアイツの場合、それが普通なのよ。まー、オメーは痴呆の老人か! って感じなんだけど。でも、近江さんは違ったじゃない? 連休明けにアイツが初めてお昼にうちのクラスへ来た時、いきなり名指しで近江さんのこと呼んだでしょ? アイツといつから知り合いだったか知らないけど。少なくとも私が知る限りじゃ、他人をフルネームで覚えてるのは、近江さんしか見たことない」