無意確認生命体
それは志田が言った例え話に対してではない。
こいつが、妹のそれを完全に見抜いていて、絶対的な、反論を許さない、余地さえ与えない、確信を持っているというような感情を、私に向かって叩き付けているのを感じたからだ。
そして途端に私は知らず、こいつの禁忌に触れかけたような、禁断の果実に歯を立ててしまいそうになったような、そんなおぞましさに全身を包まれてしまった。
私の口からは自然とこんな言葉がこぼれ落ちた。
「……ごめんなさい」
「ふぇ? なんで謝るんだ雌舞希?」
彼は心底不思議そうに訊き返す。
それは当然といえば当然だった。
今の会話の流れなら、私はこの例え話に、反論するか、納得するのならともかく、謝る必然性なんてまったくなかった。
でも私には、これ以外のいずれの選択も、絶対に出来なかった。
謝意を示す。
それ以外の選択をすれば、きっとただでは済まされなかった。
そんなふうに感じたのだ。
『何が』、なんてわからない。
ただ、そう感じたのだった。
「でも、さすがは雌舞希だよな」
私が感じているようなもの、叩き付けた自覚すらもないのか、志田はいつもの調子で、
「普通、どっかの野良猫が轢き殺されてたって、供養まではしないよ。そいつ、本望だな。居合わせたのが雌舞希で。幸せもんだ」
そう言って、作業を再開した。
その瞬間、さっきの私の選択は間違っていなかったんだと、何故だか確信できたのだった。
それと同時に、妹の兄に対する思い、この話題は二度とこいつと話す時に上げないことを、私は誓った。