無意確認生命体
そんなわけで屋上へやって来た。
「あ~。こりゃ今日は包帯ごと交換しないと駄目だね」
『部室』から救急箱を持ってきて、手際よく手当てしていく私。
「ホント、こ慣れたもんだよなー」
志田の傷はこのひと月弱のあいだで、大分塞がってきていた。
「この分なら今週いっぱいで包帯とって平気そうだよ。良かったね。中間テストは利き腕で受けられるね」
「んー。そうだなー。今日も使ってんの気付かないくらい、痛み感じなくなってたし」
「あ、そうだ。中間テストっていえばさ」
「ん?」
「明日からテスト前週間で部活停止だけど、花壇の世話ってどうするの?」
「んぁ?何言ってんの?」
志田はまるで初めて納豆を見たアメリカ人みたいな顔で私を見た。そして、まくし立てるように、
「キミは一週間分のやりもしないテスト勉強と、木や花や野菜の命とどっちが大事なんだ? テストは一夜漬けで乗り切れるかもしれんけど、木や花や野菜は一度枯れたら、もう戻らんのだぞ!」
と、どっかで聞いたような演説を述べた。
つっこみどころは満載だったが。
「ぷ。何それ? 美智のマネ?」
「おうよ。雌舞希よ、これでもキミは反論できるか? 部活停止に賛成出来るってーのか?」
「あはははは! はい、出来ません。わかりました部長。我ら園芸部員は、木と花と野菜の命を救うため、学業をポイしてみせましょう」
私はそう言って右手で敬礼してみせる。
そうして、ふたりして笑い合った。
もうこの頃には、下らない定期イベントの苦しみなど、とっくにどこかへ吹き飛んでしまっていた。