盗撮教師日記
――ガラガラッ

私は、2年1組の教室に入った。

生徒達は、冷たい視線を送りながら席に着いた。

私は、ただ黙って生徒を見回した。

「あなたたちは、本当の人間らしさというものを知っていますか?」

私がその言葉を発すると、生徒達はただ黙って下を向いた。

言っていることが、理解できていないのだろうか。

それとも、本当の人間らしさというものをまだ知らないのか。

「今日の道徳の内容は、このことです。今から、プリントを渡すのでそれに自分なりに思う人間らしさというものを書いてみてください、思っていることを素直に書いてください」

そういって、私は石垣光のところに向った。

「光くん、ちょっと」

私は、彼を廊下に連れ出した。

「なんですか、先生」

光は、とても冷静な態度をとっていた。

「さっきは、ぶったりしてごめんなさいね、感情がつい行動にでてしまったみたいで」

「あぁ、そのことならいいですよ。僕も本当は先生をぶちたい気分でしたから」

「そう……っ」

「じゃ、本当の人間らしさについて書くので僕は教室に戻ります」

光は、そういうと一礼して教室に入った。

私も教室に戻り、書類の整理をした。

生徒達が、どんなことを書くかは心配だが……

少しだけ興味があった。

もしかしたら、白紙の生徒も居るかもしれない。

でも、その覚悟でこの授業をしたのだ。

――キンコーンカンコーン

「授業が終わったので、途中でもいいので後ろの人から集めて、私の机の上にオイといてください」

私は、教室を出た。

あの私の机の上に、私の人生を大きく左右するものがあるとは……

このとき、まだ気づかなかった。

いや、気づくことが出来なかった。

なぜなら、あの時はまだ私の心が純粋ではなかったから。

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