海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「…」


いつもなら褒められてニコニコなのに、珍しく強張った表情で用紙を受け取った私の異変を感じたのだろうか。


先生は私の顔を覗き込んで、

「…どうした?」

そう、優しく問い掛けた。


聞きたいと思っているのに、緊張しているせいか言葉がなかなか出てこない。


「河原…?」


俯いて強張った表情を浮かべる私に、相葉先生はもう一度問い掛けた。


「先生…。」

「うん?」


先生は椅子に座ったまま、話し始めた私の方に体を向けた。


「ディズニーランドで…」


ガチャッ



私が話し始めたのとほぼ同時にドアが開き、

「おっ?何してるんだ?生徒があんまりここに来るなよ?」

そう言いながら入ってきたのは、もう一人の商業担当の先生だった。



『タイミング悪過ぎ…。』

そんな私の想いとは裏腹に、もう一人の先生は相葉先生の隣の席に荷物を置くと、そのままドカッと椅子に座った。


さすがにこの状況では聞けなくなってしまって、


「…相葉先生、ありがとうございました。」


私がお礼を言いながら頭を下げると、


「あぁ…頑張れよ。」


そう言って、相葉先生はいつもの笑顔のまま、準備室を出て行く私を見送った。


こうしてパソコン教室を後にした私の心の中には、聞く事が出来ずにずっと引っ掛かったままの疑問が二つ、消える事無く存在していた。



『聞きたかったな…。』


さっさと聞いてしまえば良かったと意気地の無い自分に苛立ちを感じながら、私は学校を後にした。
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