海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
気付けば時刻は18時近くになっていた。


外はもう真っ暗。


私達の後に練習に来た人達はとっくに帰り、結局まだ残っているのは私と瑞穂だけだった。


「あっという間に真っ暗だね。」


私達が帰る準備を始めた時、ガラッと教室のドアが開いた。


「まだいたのか。頑張るなぁ。」


入ってきたのは相葉先生だった。きっと最後の戸締まりに来たのだろう。


「相葉先生を待ってたからね。」


瑞穂がぶっきらぼうに言ったその言葉に、私の方がドキドキしてしまう。


実際、私は本当にそんな気持ちだったからだ。


相葉先生はハハハッと笑うだけで何も言わなかった。


「先生、もう暗いし送ってよ。」


瑞穂が放つ言葉は、どれも先生の事を意識し過ぎる私には絶対言えない言葉ばかりだ。


“送って”なんておねだりする事が出来たら、もしかしたら幸せな事が待っているのかもしれない。


そう思っても、言えない私はいつも羨ましがりながら諦めてばかりだった。



「ダメー。」


そう言って笑う相葉先生の表情は優しくて、


『やっぱり大好き。』

そう、思った。


「ケチー!」


悪態をつきながら教室を出ていく瑞穂を見て、先生は笑った。


「気をつけてな。」


瑞穂の後ろに続いて教室を出ようとした私の頭を、ポンと撫でた先生の手の温かさに、私は泣きそうになった。


切なくて、胸が締め付けられる感覚に襲われる。


突き放したかと思ったら、優しくしたり…。


こんなんじゃ諦められる訳がないって事、相葉先生はちっとも気付いていないのかもしれない。
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