海に降る恋 〜先生と私のｷｾｷ〜
電話ボックスの外に立っている相葉先生は困った表情を浮かべながら、空いている方の手で握られた電話の子機を耳にあてている。


「えっ？先生？あれ？？」


慌ててオロオロしている私に、


「…何やってんだよ…。」


ガラスで出来た電話ボックスのドアの向こうにいる相葉先生の呟きが受話器から聞こえてくると、その後すぐに、プツッと電話を切られてしまった。


先生が電話を切ったので、私も慌てて受話器を下ろして電話ボックスのドアを開けた。


「なんで？なんで先生がいるの？」


予想もしていなかった出来事に私はとても驚き、こんな所にいる事がバレた事をとても恥ずかく感じた。


『ストーカーみたいに思われたりして…。』

そんな風に、内心とてもハラハラしていたんだ。


「なんでじゃないだろう？雨がひどいって言うから窓から外を見たら、電話ボックスに河原らしきうちの生徒がいるから、ちょっと来てみたら…やっぱりそうだし。」


相葉先生は「ハァー…」と溜め息をつくと、自分のつま先を見ながら俯いた。


どんどん日が落ちて暗くなっている外では、明るく光る電話ボックスがポッカリと浮かんでいるように見える。


“私はここにいます！”


そう言っているようなものだった。



「…で、どうしてこんなところにいるんだ？」


そう言って相葉先生は顔を上げた。


「え…。」


相葉先生の視線が、痛い程真っ直ぐに私へと向けられている。


『何か理由を言わなきゃ…！』


そう思えば思う程、色んな事が一瞬の内に頭でグルグルと回り始める。


「河原の家ってこの辺だっけ？」


相葉先生は不思議そうな顔をした。


「いや、あの…。」

「うん？」


しどろもどろになりながら口を開いた私を、相葉先生は更に不思議そうな顔で見つめている。


その視線だけで、ますますクラッとしてしまいそうだった。


相葉先生には全部見透かされているような気がしていた。
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