海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「河原…制服…。」


戻ってきた相葉先生は躊躇いがちに私に近付いた。

私はゴシゴシとタオルで涙を拭い、脱水が終わったばかりの自分の制服を受け取ると、


「アイロン、お借りしてもいいですか?」

そう言って、精一杯の笑顔を先生に向けた。


相葉先生は少しだけ驚いたような表情で、

「うん。」

そう答えると、隣の部屋へと消えていった。


本当は笑う事なんか出来ない位、悲しい気持ちだったけれど、せっかく一緒にいられるこの時間を悲しい時間にはしたくなかった。


もう、望んでも一生訪れないかもしれない、最初で最後の出来事になるかもしれないと思ったから…


私は一生懸命笑っていた―…


相葉先生を待ちながら、すっかり冷めたコーヒーを一口、口に含んだけれど、色んな想いが入り混じってコーヒーの味なんかよく分からない。


それ位、何とも言えない空気が私達を包んでいた。


温まったアイロンで私が静かに制服を乾かし始めると、私も相葉先生も無言だったせいで、部屋の中には時々ジュッという蒸気の音が響いた。


「…上手いな。」

アイロンをかける私を見ていた相葉先生が呟いた。


「だって時々やってるもん。」

「…きっといい嫁さんになれるよ。」


相葉先生の言葉の後に、また沈黙がやってきた。


『先生が私をお嫁さんにしてくれたらいいのに…』


そんな想いが私の心を過ぎったけれど、私はそれを口にせずにアイロンがけを続けた。


相葉先生はこの沈黙に耐えられなくなったのか、突然テレビをつけると、静かだった部屋にはニュースを伝えるアナウンサーの声が聞こえてきた。
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