海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
ややしばらく経ち、制服が乾いてきた頃、


「先生、何かアイロンかけるものある?お礼にかけてあげる。」


斜め後ろにいた相葉先生に、笑顔で訊ねた。


「えっ、いいよ…。」


遠慮する先生に、


「ないの?」


もう一度聞くと、


「うーん、あるけど…本当にいいのか?」


申し訳なさそうな表情をしている相葉先生に、


「もちろん!」


と、私は笑顔で答えた。



「じゃあ…お願いしようかな。」


そう言って、相葉先生は隣の部屋からYシャツを3枚と、スーツのパンツを1本だけ持ってきた。


「じゃあ、お願いします。」


軽く微笑みながら差し出された衣類を、


「はい、かしこまりました。」


そう言って、私は笑顔で受け取ると、シューシューと順番にアイロンがけをしていった。




数分後、


「はい、どうぞ。」


きちんと畳んで相葉先生に手渡し、


「ありがとう。」


先生は優しい笑顔を浮かべて礼を言うと、隣の部屋に持っていった。



衣類をしまいに行く先生の後ろ姿を、私は黙って見つめていた。


『こんな事はもう、本当に一生出来ないのかもしれない』


そう感じて、すごく悲しくなったんだ…。



「じゃあ、河原も着替えるか?着替えたら送っていく。」


戻ってきた相葉先生からそう言われた途端、ますます寂しい気持ちになる。


この時間が終わる事が、嫌でも分かったからだ。


部屋に着いたばかりの時みたいな幸せな気分ではなくても、それでも、先生と離れたくないと思っていた。



「分かりました。じゃあ、お部屋お借りします…。」


自分の気持ちを隠して、とても聞き分けよく答えた私は、



『もしも私がもう少しわがままを言えたら、もっと何かが変わるのかな…。』



そんな思いが心の中を過ぎりながらも、


まだ完全には乾いていない制服を抱えて、隣の部屋に入った。
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