海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
先生の車の助手席に乗り込むと、


「河原の家ってどの辺?」


そう聞かれて、私は自分の家の方向を教えた。


相葉先生の車は、ゆっくりとアパートを離れていく。


私の家まで、車で5分から10分程度の距離だった。


きっと、あっという間の距離だろう。



『1分でも長く、一緒にいたい。』


その想いに反して、車内は相葉先生の部屋にいた時と同じく、何とも言えない空気が続いていた。


私は、居心地の悪ささえ感じるような空気を壊したくて、


「先生、迷惑かけて本当にごめんなさい。でも、ありがとうございました。」


肩をすくめて、申し訳無さそうに微笑みながら礼を言うと、


「いや、いいよ。けどこれからは寄り道も程々にな。」


私はそう言って笑った相葉先生の笑顔を、隣で見つめていた。



『相葉先生は優しい。優しすぎるから諦められないんだよ…。』


そう思っただけで、私はまた涙腺が緩みそうになる。


そんな私に気付いていたのか、いないのかは分からないけれど、


「家に着いても温かくするんだぞ。随分長い事、寒い格好していたんだろう?」


と、相葉先生は尚も私の事を気遣ってくれる。



「はーい、気をつけまーす。」


おどけてみせた私に、


「本当に分かってるのかぁ?」


そう言って、少しだけ笑いあえるようになった頃、無情にも相葉先生の車は私の家の前に到着した。



「先生、本当にありがとうございました。」


降りる前にもう一度お礼をする。


「いや、いいよ。風邪ひかないようにな。」


「はい。」


先生の笑顔につられるように、私も口元に笑みを浮かべて返事をしてから、助手席のドアを開けた。
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