海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
その時私が希望した業種は銀行や病院だったのだけれど、結局私はその会社に応募する事が出来なかった。


企業が募集している人数は大抵1人、もしくは2人。


その為、就職希望者の大半が、1回目の就職試験を受ける事が出来なかった。


受ける事が出来なかった理由は、色々とあるようだけれど、


ある程度の希望を聞いた上で、成績や住んでる地域、性格などを考慮して、先生が誰を受けさせるかを決めていたらしい。



それじゃなくても少ない求人の中で、卒業までの間に就職希望者全員が内定できるようにする為には、生徒の希望にばかり合わせている余裕なんて無かったのだろう。


私は少しでも早く就職試験を受けたくて、学年主任の先生が言っていた“沢山の資格取得”を目指す事にした。


その為に選んだ習い事は、週に2回のパソコンと週に3回の電卓。


月曜日から金曜日まで、学校が終わったらすぐに習いに行くという、多忙な生活になった。


当然、学校のパソコン教室で居残りをする機会は減り、先生と話す機会が減ってしまった事をとても寂しく感じたけれど、


それでも、自分に就職の話がこない焦りが、心から消える事はなかった。


例えば、私よりも成績が下だった人が先に就職が決まってしまうと、それが余計に私を焦らせたし、


このまま就職できずに卒業する事になるんじゃないか、っていう不安でいっぱいになった。



瑞穂は推薦で専門学校に入学出来そうだって話だったし、


梢は成績が良いから、エスカレーター式で大学へ入る事が出来そうだっていう話だった。



私一人だけ、置いてきぼりになっているような気がしていたけれど、


どんなに習い事で忙しくても、焦っていても、相葉先生と全く交流がなくなる事だけは、どうしても耐えられなかった。


どうしても話がしたい時には、勉強に関する質問が無くても、放課後や休み時間に少しだけパソコン教室の準備室へ行ってみた。


ほんの数分でもいいから、相葉先生と話がしたかったんだ。


就職の事を少しだけ忘れて、幸せな気持ちになりたかっただけかもしれない。



現実逃避っていうか…

相葉先生が、私にとって癒しの存在でもあったんだと思う。
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