海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
これはまた、就職に関して良い結果が出ているという意味の放送だった。


学年中で、暗黙の了解になっている。



「さく!おめでとう!早く行っておいで!!」


瑞穂と梢、他のクラスメイト達からも、沢山の笑顔と拍手で教室を送り出されて、



「ありがとう!行ってくる!!」


そう言って、私は満開の笑顔で答えると、教室を出て、廊下と階段を走った。


押さえきれない喜びで、自然と顔がほころんでいくのを感じる。


良い返事が聞けるという事に胸が躍り、走っている足はいつも以上に軽やかだ。



息を切らしながら職員室のドアをノックし、


「失礼します。河原です。」

と、学年主任の先生の席へ直行した。



「おっ河原、来たか。」


学年主任の先生は、私に気付いて笑顔を見せた。


内心、私はとても驚いていた。


就職試験の練習中、あんなに怖い顔ばかりしていた先生が、こんなに優しい表情を浮かべるなんて思ってもみなかったからだ。


それ位、先生にも喜んでもらえているという事を感じていた。




「随分待たせたな。正式に返事が来たんだ。おめでとう!採用だよ。良かったなぁ。」


そう言って、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべたまま先生は話し始めた。



「正式な採用通知は卒業式までに郵送で届くから。あと、初日の出勤時間とかも近くなってきたら連絡が来る事になってるから、分かり次第連絡するよ。」


メモを見ながら、分かっている事を全て伝えてくれる先生の話を、


「はい。」


と、返事をしながら、私はずっとニコニコ笑顔で聞いていた。



「それから…。」


机上のメモに目を落としていた先生が、ふと思い出したように、隣で立っていた私を見上げた。



「大崎先生にお礼、言っておけよ?随分、河原の就職に力を貸してくれていたみたいだぞ。」


「…え…?」


私は、それまでずっとニコニコしていた自分の表情が、一瞬にして強張ったのを感じていた。
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