海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
『嫌でも言わなくちゃならない事がある。』


そう思った私は、大崎先生に向かって精一杯の笑顔を浮かべると、


「先生のおかげで就職が決まりました。後押しして下さったそうで…内定できたのは先生のおかげです。本当にありがとうございました。」

そう言って、深々とお辞儀をした。


すると大崎先生は満足そうに、


「そうなの。私の父が経営している会社の関係でね、あちらの社長さんと面識があったの。時々お宅にお邪魔していたから、その時に河原さんを推薦してたのよ。決まって良かったわね。」


憎らしい程可愛い笑顔を浮かべた大崎先生に、私はもう一度


「本当にありがとうございました。頑張ります。」

そう言って、一礼した。


私にとって、精一杯のお礼だった。


どんなに嫌でもお世話になった人に礼を言うのは、人として当然だと思っていたから。



だけど大崎先生は、


「いいのよ、私があげられるものは就職先ぐらいだもの。頑張ってね。」


その大崎先生の一言で瞬きをするのも忘れた私は、ただ呆然としながら先生の顔を見つめていた。



『え…?』

困惑の表情を浮かべている私に大崎先生はニッコリ微笑むと、そのまま職員室に向かって歩き出した。



私は呆然としたまま、職員室へ入って行く大崎先生を肩越しに見送った。


私は今まで、こんなに屈辱的な思いをした事はなかっただろう。



“私があげられるものは就職先ぐらいだもの。”



その一言を心の中で繰り返す度に、心の中でふつふつと何かが煮えたぎっていく。



『何…?何なの…?』


心の中は黒くドロドロとした物が渦巻き、心の中で怒りとなって熱く燃えていた。
< 202 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop