海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「何かあったの?」

後から入ってきた二人の、気遣うような声が背後から聞こえる。


聞こえた途端、目頭が熱くなり、視界はボンヤリと滲んできた。


私は搾り出すような声で、


「く…やしぃー…っ」


そう言って、タイルで出来たトイレの壁を、強く握り締めた拳で叩くと、声を押し殺すように泣き始めた。



「な…どうしたのっ!?」


慌てた瑞穂と梢が駆け寄る。


私は搾り出すように、つい先ほどの出来事を話した。



私の就職は自分の力ではなく、大崎先生の後押しがあった事。


最後に大崎先生が言ったセリフと、


相葉先生の代わりに与えられた就職先だったという事…。



私の悔しい気持ちを、瑞穂と梢は黙って聞いてくれた。


どうしようもない現状は、二人だって分かってる。


黙って受け入れるしかないこの状況を、一緒になって悔しがってくれた。


それだけで私は随分救われた気がしたけれど、どうしても悔し涙は止まらなかった。




きっと、大崎先生が後押ししていた事を相葉先生は知っているのだろう。


大崎先生に感謝し、このまま喜んで就職するのだと相葉先生が聞いたら、先生はどう思うのだろう。


このまま就職する事で、自分よりも就職を選んだと思うのだろうか。


これでキッパリ諦めると思うのだろうか。


自分の意思なんて、有って無い様なこの状況だったとしても…


仕方がない現状だとしても…


私の気持ちはその程度なのだと、相葉先生は思うのだろうか。



私は、その事がとても不安でならなかった。
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