海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「…っく…」


私の涙腺はとっくに壊れていたから、相葉先生の顔や最後に使ってくれたネクタイを見ただけで、自然と私の目には涙が浮かんでくる。



「あはっ…。」


軽く笑いながら、私は自分の前髪を撫でた。


無駄な抵抗だけど、声を上げて泣き出しそうな自分の顔を少しでも隠したかったんだ。




「卒業、おめでとう。」


相葉先生のその一言と笑顔で、胸がきゅーっと苦しくなる。


苦しくて、心が押し潰されてしまいそうで、


堪えきれずに涙が一粒零れ落ちた。



「相葉先生ありがとうございました。本当に色々お世話になりました。」


泣きながら、精一杯の笑顔で頭を下げて、


それから、


「先生、それ、私がプレゼントしたネクタイだね。」


そう言いながら相葉先生の胸元を指差すと、



「あぁ、うん。」

照れたように相葉先生は微笑み、


「せっかくもらった物だから、今日はこれにしようって決めてたんだ。」


ニコニコしながら、軽くネクタイを摘んだ。



「先生、ネクタイ使ってくれてありがとう。それと、この前はごめんなさい!ひどい事を言ってごめんなさい…。」


私はもう一度、深々と頭を下げた。


自分の言動を、心から『申し訳ない』と思っていた。




「全然!何にも気にしてないから。俺も悪かったんだ、ごめんな。だから気にするな。」


相葉先生は微笑みながら、灰皿にタバコを押し付けて火を消した。


私はもみ消されたタバコの火種から、一筋の細い煙が立ち上って徐々に消えていくのを見送りながら、


「良かった…。もしかしたら許してもらえないんじゃないかと思ってた…。」


ほっと胸を撫で下ろした。


相葉先生のその一言と笑顔で、本当に安心できたんだ。
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