海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
“本試験、頑張って!”


そう言われた時、私の頭の中ではワープロ検定前の相葉先生の姿と、青山先生の姿がだぶっていた。


『頑張れって、相葉先生もいつも言ってくれてたっけ…。』


そんな思いにふけってしまいそうになり、



『いけない、いけない。』


記憶の中の相葉先生から目を逸らすように、溜め息を一つついた時だった。



「さくー。」


少し離れた所で、先に車を降りていた瑞穂が手を振っている。



「お疲れー。」


私が近くまで駆け寄ると、



「お疲れ。つーか、青山先生と何話してたの?なんか楽しそうだったけど。」


瑞穂がニヤニヤしながら聞いてきた。


「別に…本試験頑張れって、それだけだよ。」

「ふーん。」

「あと、合格したら教えてって言ってた。」

「ふーん。」


瑞穂はますますニヤニヤしている。


意味ありげな笑みを浮かべ続けている瑞穂の態度が気になって、私は慌てて瑞穂に詰め寄った。


「いやいやいや、瑞穂も言われたでしょ!?とっちゃんに!」


“とっちゃん”というのは、さっきまで瑞穂を担当していた先生の事で、私達が勝手にそう呼んでいた。


「いや、別に。」

そう言って、瑞穂は首を横に振る。


恥ずかしくなってきた私は、


「…青山先生はみんなにそう言ってるんだよ。」


そう言って、少しだけプッとしながらそっぽを向いた。


「そうかもしれないけど、何となーく、さくと話している時の青山先生が楽しそうに見えたから。」


瑞穂はニコッと笑った。


そして、


「まっ、本試験頑張ろう!」


それまでの話なんて気にもしていないかのように、瑞穂は私の腕に自分の腕を絡ませて、自動車学校の建物に向かって歩き始めた。


半ば瑞穂に引っ張られるように中に入り、受付で自分のファイルを係りの人に手渡すと、送迎バスが来るまで建物内の待合室で待つ事にした。


待合室にいるのは、私と瑞穂の二人だけだった。
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