海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
『仕事が終わったばかりだし、きっと何も食べてないんだろうな。』


そう思いながら、


「先生、ごはん食べないの?」


と、聞いてみる。



「あぁ…今日はいいかな。」


「ふーん。お腹空かないの?」


「うん、大丈夫。さて、どこに行こうか。」


そう言って、青山先生は「うーん。」と唸りながら、思いつくままに車を走らせた。



最近の青山先生は、仕事が終わった後すぐに私と待ち合わせているにも関わらず、食事も取らないで一緒に出掛ける事が増えた。


『もしかしたら私に気を遣ってるのかもしれない。』


そう思って、


「ごはん食べに行く?」


と、聞いてみた事があったけれど、


「今日はいいや。」


大体の場合、その一言で終わってしまった。



“いらない”と言われても、


会った時に“腹減った”という言葉を時々聞いていたせいで、


ほんの少し、心の中では引っ掛かっていたけれど、



もしかしたら、待ち合わせ場所に来るまでに軽く何かは口にしているのかもしれないし、


食事に行きたくてもお金が無かったのかもしれないし…



何らかの理由があって“いらない”と言っているのだとしたら、


『無理に食事を取るように言うのもどうか。』


そう思った私は、理由を深く追求しなかった。



青山先生が車を走らせている道路は国道にも関わらず、


周りには特に目立つ建物も無い、かろうじて街灯がポツリポツリと灯っているような道だった。


「しかし田舎だよなぁ…。どの方向に向かってもこんな感じだもんな。」


そう言って、青山先生はたばこを1本くわえて火をつけた。


「そうだね。こんな田舎だと何をして遊べばいいのか分からないよね。あ!音楽聴こうよ。私、色々持ってきたんだよ?」


私は持ってきたMDを見ながらアーティストの名前を読み上げて、


「どれがいい?」


青山先生の希望を聞き、仰せの通りにMDをカーオーディオに入れた。
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