海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
大和はほんの少しの間無言だったけれど、もう一度私の方を向いて訊ねた。


「さくは一緒に着いてきてどうするの?今の仕事はいいの?」



“今の仕事。”


高校生の時、大崎先生から相葉先生の代わりに与えられたように感じた就職先。


就職が決まった時は色々思う事があったけれど、手を抜いたりせずに頑張った甲斐もあり、任される仕事も増えたし、結果、やりがいもあった。


それでも、今の仕事について自分なりに結論を出した上で大和に私の気持ちを伝えていたんだ。



「もちろん、一緒に行っても私も働くよ?今の仕事はやりがいもあるけれど、その為だったら辞めようと思っているよ?」

「辞められるの?」

「大丈夫だよ。」

「お父さんとお母さんは許してくれるの?」

「それはまだ話していないから分からないけど、ちゃんと話せば許してくれると思う。」

「…」


彼はまた無言になり、何かを考えているようだった。



「俺に着いてくる事は、さくの為になるのかな…。」


大和が私の事を想って言ってくれているという事は分かっているのだけれど、なぜか無性に腹立たしさと悲しさを感じた。


「…どうして?」

「いや、何となく…。」


その曖昧な返事が、余計に私を苛立たせる。


「私はいいと思ってるよ。」

「そっか…。」


そう言って黙り込む大和を見ていると、一緒に着いてくる事に反対しているように思えてくる。


私は逆上しているのか、それとも不安が募って気持ちが不安定になっていたのかよく分からないけれど、急に涙がこみ上げてきた。


「…ちょっ、どうしたの!」


焦った大和が、涙をポロポロ零しながら俯く私の顔を覗き込んだ。


「だって、大和は迷惑そうなんだもん…。」


私は鼻をグズグズいわせながら、若干不貞腐れ気味に答えると、


「そんな事ないよ…。」

「大和は全然平気なの!?きっと殆ど会えなくなっちゃうのに!!」


私の感情的な物の言い方で、途端に大和も熱くなった。
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