海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
緊張気味な私と真正面から向き合ってソファに腰をかけた椎名先生が、笑顔で口を開いた。


「今後の就職に関してなんだけど、どういう職種にしようか決まってる?」


椎名先生に訊ねられて、私はようやく思い出していた。



『そう言えば何日か前、今後の就職に関する面談をするって言ってたっけ…。』


私はその時の記憶が頭に浮かび、特に問題があった訳ではなかったのだと内心ホッとしながら、


「事務にしようと思ってます。」

と、答えた。



「そう。もうどこか応募しているの?」


「いえ。まだ特に応募はしていませんが、時々求人を見ています。そろそろ本格的に探さなくてはならないと思っていました。」


修了が近付くにつれ、私も含めて周りの子達も求人票をよく見るようになっていた。


「あなたならスキルも高いし、応対もきちんとしているし、きっとすぐに就職できるわね。」


にこやかな表情で私を見つめる椎名先生に、


「ありがとうございます。そうなれるように頑張ります。」


と、私も笑顔で答えた。



「帰ろうとしている時に呼び止めてごめんなさいね。どうもありがとう。」


そう言って席を立とうとする椎名先生の後に続いて、私も席を立ち、


「いえ、とんでもないです。明日も宜しくお願いします。」


笑顔でお辞儀をし、椎名先生に背を向けて部屋を出ようとドアノブに手をかけた時だった。



「…河原さん!」

「えっ!?はいっ!何でしょう!?」


もう一度呼び止められて、私が驚きの眼差しで振り返ると、



「アハハ、ごめんなさいね、何度も。」


そう言って笑いながら椎名先生が近付いてきた。



「あなた、人に物を教える仕事ってどう?」

「えっ?」


言われた事が理解出来ず、ただキョロキョロと目を泳がせながら椎名先生の顔を見つめた。



「…パソコンの講師なんて、どう?」

「えっ!?」


あまりの驚きで、私は椎名先生の顔をじっと見つめた。
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