海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「ありがとう。」


申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど、本当にありがたいと思っていた。


出来る事ならば、自分の仕事が始まっても今までのようにしてあげたいって思っていたから。


『別々に住んでいても、出来る時は一緒に食事をしたいし、大和の部屋の掃除に洗濯、Yシャツのアイロンがけもしてあげたい。』


そう、思っていた。



「今日はうちに来る?」


運ばれてきたお料理を口に運びながら、キラキラした瞳の大和に訊ねられて、

一瞬、今度自分が入る事になった授業の準備をしなければならないという事が頭を過ぎったけれど、何となく言い出せずに、


「うん、行こうかな。」

そう言って、私は微笑んだ。


内心、


『テキスト位持って出てきたら良かった。』

そんな後悔が頭に浮かんだけれど、夕飯の準備が出来なかった後ろめたさからか、


『やっぱり今日は仕事よりも大和を優先しよう。』

という考えに変わった。




大切にしたかった。

大和の事も、私自身の事も。




だけどそれは…

私には欲張りな望みだったのかもしれない―…




しばらくして食事を済ませた私達は、店を出てそのまま大和のマンションへに向かった。


大和がお風呂に入っている間、乾いた洗濯物の中からYシャツを取り出してアイロンがけを済ませると、


濡れた髪をゴシゴシとバスタオルで拭きながら出てきた大和が


「ありがとう。」

と、嬉しそうに目を細めた。


好きな人の喜ぶ表情を見ると、私もなんだか嬉しくなる。

これが幸せなんだと感じた。
< 372 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop