海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
適当に食事を済ませたのは、食事作りにかける時間を勉強の為に使いたいと思ったからだった。


それに、


「作ったからおいで。」

そう言って大和を招き入れてしまえば、自分の作業を中断せざるを得ないとも思ったから。


仕事を優先したこの日、私は大和に会える状況ではなかった。



「ごめんね、実は今日…。」



私は来月から始まる訓練を担当する事を大和に話した。


知ってもらって、出来る事なら任された仕事の重みや、今の私の状況を理解してもらいたいと思っていた。



「だからしばらくは忙しいと思う。なるべく休みの日はお家の事をやるから…ごめんね?」

「…分かったよ。あまり無理しないで頑張ってね。」

「ありがとう。」

「じゃあ、おやすみ。」

「おやすみ、大和。」


そう言って、大和との電話が終わった。



『これで集中できる。』

なんとか大和に納得してもらえた事で安心出来た私は、この日、深夜3時を過ぎるまで作業をし続けていた。



そしてこの日から、

昼間は会社で、夜には自宅で“仕事”が続いた。



会社から帰ってきて心身共に疲れていたとしても、勉強をしない日はなかった。


勉強をしていると深夜になるまでの時間は驚くほど早く、多少はテレビを見て気分転換をしたりもしたけれど、殆ど見ていないに等しかった。


唯一、大和と電話で話している時だけが、完全にパソコンから離れていた時間かもしれない。


でも残念ながら、話している内容は毎日殆ど同じだった。


「これから帰る」という報告と、

「頑張ってね」という励ましと、

「おやすみ」という挨拶。


長電話をする事にも抵抗があったせいか、ごく自然に、今までのようなゆっくりと会話をする時間が減っていった。


生活していく中で、私が仕事で大和が休みの日もあったけれど、そんな時に限って大和は会社の同僚と集まる事になったり。


なかなかゆっくりと会う時間が取れないまま、一日一日を慌しく過ごして、


ついに初めて授業に立つ日を迎えた。
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