海に降る恋 〜先生と私のｷｾｷ〜
「行ってらっしゃい！」

そう言った時の椎名先生の笑顔を見届け、他の講師達にも同様に送り出されながら、


「行ってきます。」

と、微笑みながら会釈をしてみんなの前を通り過ぎ、私は笑顔で生徒さんの前に立った。


「おはようございます！」


生徒さんに精一杯の笑顔で挨拶をした私は、

背中の真ん中程まで伸びた、緩いウェーブのロングヘアに、ミントグリーンのツインニットとシフォン生地の白いフレアースカート、ローヒールのパンプスという姿だった。



初めて対面する私に向かって、


「おはようございます。」

と、遠慮がちな様子で生徒さんが私に挨拶を返してくれた。


「本日担当します、河原と申します。どうぞ宜しくお願いします！」


私がしゃんと背筋を伸ばして、ふくらはぎがピリリと張るようなお辞儀をすると、その生徒さんは私の想像通り、


「こちらこそ宜しくお願いします。」

と、穏やかで柔らかな笑顔で答えてくれた。



ついに始まったその時の授業は、とにかく無我夢中だった。


生徒さんがご年配で初心者だった事もあり、あまりスピードが早くならないように心掛け、

なるべく分かりやすく説明したつもりだけど、意味不明な事を言っていたかもしれない。


もしかしたら、授業の内容よりも私の必死さばかりが伝わっていたのかもしれない。


そんな自分を冷静に判断する心の余裕が出来ないまま、１時間の授業は終わりを迎えた。



「では、今日はここまでにしましょう。お疲れ様でした！」

生徒さんに最後の挨拶をしてから、笑顔でお辞儀をすると、


「ありがとうございました。また宜しくお願いしますね。」

と、生徒さんは優しい笑顔で会釈をし、その場を去っていった。


生徒さんが教室を出るまで見届けると、私はテキスト類をまとめて事務所に戻った。

椎名先生や他の講師達が私の姿を見るなり、


「お疲れ様！」

と、一斉に声を掛けてくれて、

その瞬間、ふっと緊張の糸が解れたような気がした。
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