海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

扉の向こう

――――
―――――…

新しい街に来てから初めての秋。


最近では風が冷たくなり、外を歩く時には薄手のコートが欠かせなくなった。


パソコン講師となって半年。


これまでの間で3ヶ月間の訓練を無事に終え、その後も単発の団体講習を数回経験し、少人数の授業はほぼ毎日担当した。


何より入社した翌月に任された訓練が、最初に椎名先生が言っていた通り、私が一番成長出来た仕事だと思う。


その3ヶ月間は特に必死に勉強し、更に色んな経験をした事によって、私は着実に自信をつける事が出来た。


勉強だけじゃない。


人と人とのコミュニケーション。


それはとても刺激的で、色んな事を感じ、得る事が出来た。


どんなに大変で難しかったとしても、私は仕事が面白くなっていた。




だけど…




「もしもし?大和?」


会社から帰宅した私は、すぐに大和に電話をかけた。


最近では、大和よりも帰宅時間が遅くなる事も増えていて、今日もそうだった。



「さく、今帰ってきたの?」

「うん。」

「お疲れ。」

「お疲れ…。」


以前よりも大和と会う時間も、話す時間も短くなっていたせいか、日を追うごとに言葉少なになっていく大和との会話に私は戸惑っていた。



「大和は家にいるの?」


着替えも後回しにして電話をかけたので、私は羽織っていたコートだけを脱いでベッドの端に腰掛けた。


「うん、家。だけど会社の先輩とこれから飲みに行く。」

「そう…。」

「俺、そろそろ行かなきゃならないから。また明日ね。」

「うん、気をつけてね。」

「ありがとう。じゃ…。」

「じゃあね…。」


私は大和との通話が途切れてしまった携帯を閉じると、重い腰を上げて部屋着に着替え始めた。
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