海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
私はそうやっていつもビクビクしながら生活していたけれど、


それでも…


それでも、“仕事を辞める”という選択肢だけは選ばなかった。




相葉先生と同じ道に進めた喜びも、

生徒さんに対して感じる喜びも、

好きなものを仕事に出来た事も、


全てが私にとって大切な事だったから。



そんな私の事を、


『いつか分かってくれるかもしれない』


という、僅かな期待が私の心の中にはあった。


正確には、“期待”というよりも“分かって欲しい”と願っていた。



この想いがあったからこそ、大和が満足するような生活を送るのが難しくても、


それでも、この仕事を続けていたんだ。




大和との関係がおかしくなって、願い続けた数ヶ月後。


寒さが増した11月の、大和の部屋に行ったある夜の事だった。



なかなか続かない会話が途切れた時、まっすぐにテレビを見つめたまま大和が言った。




「俺には、さくとの将来が考えられない…。」



ピンと張り詰めた空気が漂っているのを肌で感じながら、


その言葉を聞いた私は一言も発する事が出来なかった。



驚いた訳ではなかった。


いつ、こんな言葉を聞いても、おかしくないって思っていたから。



心の準備は出来ていた。


それでも、ショックだった。



それが大和の出した答えなのだと、


私の願いは彼に届かなかったのだと、


そう、ハッキリと分かったから―…
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