海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
靴を履きながら、背後に大和の存在を感じた。


私が背を向けている間、ずっと彼は無言だった。




「…ごめんな…。」


大和の言葉に私が振り返ると、まっすぐに私を見つめている大和がいた。


私は大和としっかり向き合うと、


「私の方こそごめんね…。」


と、もう一度謝った。



『こんな風に大和と会うのは、これが最後かもしれない。』


そう思った時、



「さくの事が嫌いになったわけじゃないんだ…。」


大和は視線を落としてそう言った。


分かってた。

そんな大和の気持ち、分かってたよ―…



「私だって、大和の事が嫌いになったわけじゃないんだよ…?」


自分の本当の気持ちを伝えた時、涙がまた一粒、頬を伝った。



嫌いになったわけじゃない。

ちゃんと好きだった。

けれど、大和が求める彼女にはなれなかったんだ―…




「でも、さくは俺と離れて自分の好きな仕事をするべきだと思う…。」

「…」


私は返す言葉が見つからないまま、彼の顔をじっと見つめた。



「俺も頑張るよ、色んな事…。だからさくも頑張って…。」


そう言った時の彼の表情はとても穏やかだった。


別れは悲しい。

それでも、大和が強く決心しているという事が伝わっていた。



「ありがとう…。大和も頑張ってね…。」

「うん。」


私達はどちらからともなく手を差し出し、握手をしていた。


その手はとても温かくて、力強かった。



「本当は…。」

「うん?」


私は握り締めた手を見つめている、彼の言葉の続きを待った。



「本当は、もっと一緒にいたかった…。」


そう言って悲しく微笑んだ大和に、私は何も言う事が出来なかった。
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