海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
どれほど大和に寂しい思いをさせてしまったのだろうか。


なのに、いつからか大和の顔色ばかりを伺うようになっていた。


『大和はただ、一緒にいたいと思ってくれていただけなのに…。』


そう思えば思う程、大和にかけるべき言葉が見つからなくて。


ただ、ただ、胸が苦しかった。




大和は私を見つめると、


「けど、お互いの為にもこれでいいんだ。すぐは無理かもしれないけれど、何かあったら力になるから。元気で頑張って…。」


そう言って私を見つめていた時の彼の瞳は、少しだけ、前向きな未来を見つめているような感じがした。



「本当にごめんね。今までどうもありがとう。」


「俺の方こそありがとう。元気で…。」


「大和も元気でね…。」


固く握り締めていた私達の手がゆっくりと離れ、完全に手が解かれた時に、また一粒涙が零れ落ちた。


これ以上泣き顔を見せてはいけないような気がして、私は大和から顔を背けるようにして部屋を出た。



私は振り返らなかった。


泣きながら、振り返らずに歩き出すと、


静かにドアが閉まる音が背後で聞こえた―…





沢山の車が行き交う道を、自分のマンションに向かって歩いている時、私の心は寂しさと申し訳無さでいっぱいだった。


けれど自分の部屋に入って灯りをつけた時、


“もう、気兼ねしないで自由に生活をして良いのだ”


と、少しだけ気持ちが楽になったのも事実だった。


それが私の心の中にある、寂しさの反面だったんだ。



大和の事が大好きだった。

仕事も頑張りたいと思っていた。


そのどちらも大切にする為に、必死にバランスを取ろうとしていた生活は、


とっくに限界を迎えていたという事を、私はこの時ようやく知った。




そして、私は願ってる。


大和には幸せになって欲しいと。


彼が望む、温かな生活が手に入りますようにと。


今でもずっと、願ってる。



どうか…


どうか誰よりも一番、幸せでいて欲しい―…
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