海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
――――…

「最近、昼間は暖かくても、夜は寒いですよね。風邪を引かないように気をつけて下さいね。」


授業が終わり、これから帰ろうとする生徒さんに私は声をかけた。


「河原先生も気をつけて下さいね。ありがとうございました。」


そう言って、会釈をして教室を出て行く生徒さんに、


「お疲れ様でした。」


と、私は笑顔で見送った。



元々緩くパーマがかかったロングヘアは、更に伸びて腰に近づいた。


着る服の多くはスーツで、

好きなブランドはNATURAL BEAUTY。


殆どの場合、色は黒。

もちろん、今日もそうだった。


黒のスカートに、深めのラウンドネックになったシルバーラメのカットソー。


細めのベルトを腰に巻き、セットアップになっている黒のジャケットを羽織った。


パンプスは高さ8センチ位のピンヒールが好き。


それが、私にとって一番足が綺麗に見える高さであり、ヒールの種類だと思うから。



数年という時間が経ち、“お嬢さん”だった私は、少しずつ“大人の女性”に変わろうとしていた。


変わると言っても“まずは見た目から”って所かも知れないけれど、それはそれで良しとしようと思う。



授業を終え、テキスト類を腕に抱えて事務所に戻ると、


「お疲れ様です。」


そう、他の講師達に声を掛けながら、私は自分の席に座った。



次に担当する生徒さんのカルテをチェックしながら、授業の準備をし始めた頃、


「河原先生、ちょっといいかな。」


そう言って背後から私を呼んだのは、椎名先生より上の立場である教室長だった。



「はい、何でしょうか?」


席に座ったまま教室長の方を振り向くと、教室長の隣には椎名先生が立っていた。


「次の授業は他の講師に代わってもらって、ちょっと打ち合わせを出来ないかしら。」

「分かりました。すぐに引継ぎをしますね。」


椎名先生の指示を受け、私は傍にいた講師に授業の交代をお願いして、手短に次の授業の内容や生徒さん達の傾向などを説明した。
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