海に降る恋 〜先生と私のｷｾｷ〜

「すみません、お待たせしました。」


引継ぎを済ませた私は、教室長と椎名先生に会釈をしながら駆け寄った。


「では、応接室で話しましょうか。」

「そうしよう。」


椎名先生の提案に教室長が頷き、先に歩き出した二人の後に私も続いた。


応接室に入ると、普段は滅多に座る事がない、フカフカなソファーへと案内され、


「失礼します。」

と、私はぎこちなく腰をかけた。


テーブルを挟んだ私の向かいには、教室長と椎名先生の二人が座った。



『何かあったのだろうか…。』


突然の呼び出しに、何か悪い事でもしてしまったのだろうかと少しばかりの不安を感じていると、



「実はね、ちょっとした依頼があったのよ。」


そう、話を切り出したのは椎名先生だった。


私は呼ばれた時に感じていた心配は取り越し苦労で、特に悪い出来事があったわけではないという事にほっとしていた。



「依頼、ですか？」


内心、『どんな内容なのだろう？』と疑問を感じていた私に、



「そう。」


椎名先生はニッコリと微笑みながら頷いた。



「どんな依頼だったんですか？」


「実はある所から、パソコン講師を１人出向してもらえないだろうかって話が来たのよ。」


「外部講習ですね。」


私が当たり前に出向の話を聞き入れる事が出来たのは、他の施設で講習をする事自体が決して珍しい事ではなかったからだ。


実際、今までに何度も経験してきた事だった。



「そう、外部講習。期間は来月から３ヶ月間。」

「訓練ですか？」


“３ヶ月間”という期間から、私はすぐに“職業訓練”を連想したのだけれど、



「ううん、訓練ではないの。」

そう、あっさりと椎名先生に否定されて、



「へぇ…。」

と、心の中で『珍しいな』と思いながら呟いた。


なぜなら、会社や何らかの団体から講習依頼があっても、これまでの経験上、期間は大抵１週間位、長くても２週間位のものばかりで、

職業訓練以外で“３ヶ月間”という長期の外部講習は経験した事がなかったのだ。