海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
この会社で講師という仕事に就き、

時間が経つにつれて徐々に任される事が増えてきた頃だったので、


『珍しいケースだからこそ、私に担当させてくれるのかもしれない。』

とも感じていた。



この時の私の顔には、“訓練以外の長期講習なんて珍しい”という気持ちが表れていたのだろう。


椎名先生はにこやかな表情で話を続けた。



「講習場所は依頼主である、ひばりヶ丘女子高等学校よ。」

「えっ?」


困惑の表情を浮かべた私に、椎名先生は畳み掛けるように言った。




「…あなたの母校よね?」




驚きの余り言葉を失った私は、返事をする事さえも忘れてしまったのだけれど、すぐに現実を取り戻し、


「…はい…。」


と、静かに首を縦に振った。



“講習場所は私の母校”


その事を知った途端に、心臓がドクン、ドクンと体中に大きく響いていた。




私が思い出さないはずがない。


相葉先生…


あなたの事を連想しないわけがないのだから―…




そんな私の気持ちは露知らず、椎名先生は事の詳細を説明し始めた。


「実は、あなたの母校にパソコンの先生が2人いるらしいんだけど、その内1人の方が3ヶ月間入院するそうなの。」


「はい…。」



聞きながら、


『今はパソコンの先生が2人なんだ』とか、


『もしかして相葉先生が入院?』などと、


色んな思いが心の中で渦巻いていた。




「その人員の穴埋めとして依頼が来たのよ。」


「でもどうしてこの会社に来たんでしょう…。」


それは、思わず口にしてしまった小さな疑問だった。


“私の地元ではないこの街にある会社に、なぜ依頼があったのか”


私には全く検討がつかなかった。



「あなたの地元ではなかなか見つからなかったみたいね。それで、職業安定所から紹介があったみたいだけど。」


「そうですか…。」


確かに私の地元は田舎だし、早急にパソコン講師を探すという事は容易ではなかったのかもしれない。


そう思うと、椎名先生の説明は十分に納得できた。
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