海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「おはようございます。」


会社に入ってすぐ、同僚の講師に挨拶をしながら、私は自分の机の上に持っていたバッグを置いた。


「おはよう。」


私の後に入ってきた教室長が、にこやかに挨拶をしながら席に着くと、

そのすぐ後に椎名先生がやってきた。


「おはよう、河原。今日もキマってるわね。」

そう言って、満足そうに微笑みながら私の横を通り過ぎていく。


「おはようございます。そう言っていただけると、何だかとっても嬉しいです。」

私もにっこりしながら、椎名先生に軽く頭を下げた。



私の母校を訪問する約束の時間は夕方で、出発は昼過ぎの予定だった。


それまではいつも通りに授業をするのだけれど、心の中はいつまでも落ち着かず、


『いっその事、早く挨拶に行って、早く終わらせてしまいたい。』


そんな風に思う程だった。




『もうすぐ相葉先生に会うんだ…。』


無意識の内に、何度もそう心の中で呟いている自分がいる。


思えば、私が卒業してから8年ぶりの再会だ。


目に浮かぶのは、私がまだ生徒だった頃の相葉先生の姿。


今の相葉先生がどんな姿かなんて、全く想像がつかなかった。


逆に、相葉先生の方が私には気付かないかもしれない。


気付くかどうかの問題以前に、


相葉先生の記憶の中からは、私の存在なんて消え去っているのかもしれない―…


そんな色んな想いが、どんどん頭の中を支配していくようだった。



長い、長い午前中を過ごし、

胸いっぱいの状態で昼食を済ませた後、



「そろそろ行こうか。」


そう、教室長に声を掛けられて、椎名先生と3人で会社を出た。



運転席には教室長、助手席には椎名先生。

そして、後部座席に私が乗り込んだ。



車で約3時間という道程。

その道中で話した、教室長と椎名先生との会話の内容なんて、全然頭に入らなかった。
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