海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
こうして、不安でいっぱいだった学校訪問を無事に終えて車に乗り込んだ時、

私は現実に戻ろうと、教室長達に不審に思われない程度に頭を軽く2、3回横に振った。



これから自分がすべき事を、冷静に見つめ直すべきだと思ったから。


自分に任されている事は、大切な仕事だという事。


その為にこの学校に来るのだという事。


講師として、無事に3ヶ月間を終えるだけだという事―…




だけど本当は、そうやって意識する事で、


“相葉先生に恋していた頃の自分には戻らない”


と、もう二度と傷つかないように自分を守っていただけなのかもしれない―…



挨拶に伺ってから母校に出向するまでの期間は約2週間。


普段通りに授業をして、

椎名先生や教室長との打ち合わせ、

生徒さんへの報告、

自分自身の準備―…


諸々をこなしていくだけで、あっという間に1日が過ぎていった。



「河原先生がいないのは寂しい。」

そう言ってくれる生徒さん達とのしばしの別れは、私にとっても寂しい事だった。


“3ヶ月間、不在になるんです。”


この説明をする度に私自身が悲しい気持ちになる程、慕ってくれる生徒さんの存在は大きかった。


私は生徒さんにパソコンを教えているけれど、逆に私を励まし、講師として成長させてくれる存在が生徒さんだったからだ。



「でも3ヶ月後には戻ってきますから!その時また元気にお会いしましょうね!」


そう言って、明るくお別れをし続けた日々だった。



出向の日が近付いていたけれど、変な緊張感や不安感は学校訪問前よりも少しだけ薄らいでいた。


やはり、事前に相葉先生に会えた事が良かったのかもしれない。


『いつも通りの自分でいる事だけを考えよう。

私がやるべき事を全うしよう。

その気持ちだけを持ち続けよう―…』


私は毎日心の中で、繰り返し思い続けていた。
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