海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「どうやって先生はパソコン講師の仕事に就いたの?大学とか専門学校に行ったの?」


「ううん、行ってないよ。高校を卒業した後はすぐに就職したからね。しかも事務職。」


私の返事を聞いてすぐに、その場にいた生徒さん同士で


「それでもなれるんだね。」

「いいよね。」


などと話している声が聞こえた。


私を通じて“パソコン講師”という仕事に興味を持ち、やってみたいと思ってもらえたのなら、それは講師冥利に尽きるっていうやつだと感じたし、


『進学しないから興味があっても出来っこない』


そう簡単に諦めて欲しくないと思っていた分、私によって少しでも生徒さんが自分の将来に希望が持てるなら本望だとも思っていた。



「私はね、職業訓練に通っていた時期があって…」


この仕事に就くまでの経緯を話し始めると、生徒さん達は“うん、うん”と興味深げに話を聞き、話し終わる頃には少しだけ表情が明るくなっていたような気がした。


「一生懸命にやれば、きっといい事があるよ。だから簡単に諦めたりしちゃいけないよ?」


生徒さん達にそう言った時、心の中ではふと、相葉先生に対する今の自分の事を思い返していた。



『私は簡単に諦めようとしているのかな―…』



そう心の中で呟きながら、パソコン教室と準備室を仕切るドアの辺りに視線を移すと、気付かない内に相葉先生が立っていた。


「おーい。熱心に練習もいいけど、そろそろここも締めるぞー?」


そう言いながら相葉先生が教室に入ってきたのでチラリと時計を見てみると、時刻は既に18時を回っていた。


「あぁ!すみません!もうこんな時間になっていましたね!」


私は相葉先生に謝り、片付け始めた生徒さん達と一緒に笑い合った。
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