海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「初めまして、パソコンを担当する相葉です。」


それが、相葉先生が発した最初の挨拶。


178センチ位の長身に、着込んでいるスーツはピシッとしていて、とてもサマになっていた。


メタルフレームのメガネは涼しげで、更にクールな印象を与えている。


「このクラスは簿記も私が担当しますので、どうぞ宜しく。」

その一言に、私は静かに驚いていた。


知らなかった。

相葉先生が簿記も担当するなんて、全然知らなかった。


私の場合、2科目も相葉先生が担当するという事が分かった途端、


『嫌いなんだよね、この男…。』


心の底からそう思った。


もしかしたら、顔に出ていたかもしれない。


相葉先生は「最初の授業だから。」と、授業には全く関係ない、自分の話を始めた。


話の内容は、相葉先生が今、ハマっているものの話。


残念ながら、話の内容が面白かった訳ではないのだけれど、なぜか私は相葉先生から目が離せなくなっていた。


たった1時間、話を聞いていただけなのに授業が終わる頃には


『相葉先生って本当は悪い人じゃないのかも…?』

そんな風に思えていた。


自分でも不思議に思う程、相葉先生の印象が変わったのは…


見方によっては真面目そうな感じを通り越し、冷静沈着で冷たい雰囲気の相葉先生が、

実はとっても柔らかい笑顔になる、温かい人に思えたから。


そのギャップを感じたからかもしれない。


授業が終わる頃、私の心の中には最初のような『嫌い』という感覚が薄れていて、

もっと色んな話を聞いてみたいと思うようになっていた。


こんなに一気に気持ちが変わる自分自身には呆れたけれど、

好感が持てる人が増えるという事は嬉しい事。


『良しとしよう。』


そんな風に、自分の気持ちの変化を前向きに受け入れてみる事にした。



でももしかしたら…


気付いていなかったけれど、


この時から既に、恋が始まっていたのかもしれない―…

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