いちごのきもち
§22:幸せな気持ち
愛美が、遠慮しなくなった。
教室に入るなり、大希くんに腕を絡めたり
とにかく、ベタベタ触って
見ていて、あまり気持ちのいいものではない。

紗里奈にそう言ったら

「そーお?」

で、片付けられてしまった。

「あたしは別に、気にならないけど
 そんなもんじゃない?」

だって。

愛美が笑ったら、むかつく。
他の女子としゃべってるのを見ただけで
何様のつもりだって、思う。

あの人とじゃない、他の男子と話してるのは
浮気か裏切りと思って、間違いなし。

とにかく、むかつく。
何を見ても。

従者体質の松永は、酒井地蔵だけでなく
紗里奈にもお仕えしたいがために
私にまで、話しかけてくる。

「そう言えば、横山さんさぁ、
Pボーイバックの、新ユニット、
昨日のテレビで、見た?」

「いや、見てないし」

昨日は、スマホで漫画読んで
すぐ寝た。

「あ、そうなんだ」

松永が、まごまごしている。
次に、何の話題を振ろうか、
必死に考えてる。

それが、私にも分かるけど
助けてやらない。

「あ! そういえば、
 横山さんが前に好きだって言ってた
 肉球シリーズのガチャ
 たまたまもらってさぁ」

いたいけな松永は、ポケットから
小さなおもちゃを取り出す。

「よかったら、あげるよ」

お前が渡さなければならないのは、
私ではなくて、紗里奈のはずだが、
将を射んと欲すればなんたらなので、
この猫もかわいいし、仕方ない
もらっておいてやろう。

無言で突き出した私の手の平に
松永が、小さな猫のかたまりを置く。

それは、丸まって眠る小さな三毛猫で
むき出しの肉球が、触ると気持ちいい。

松永は、ほっとした顔で、
ちょっと赤い顔をしたまま
私の手の中の猫を見ている。

「ありがと」

私がそう言うと
松永は真っ赤な顔で、一度うなずいた。

私はその猫を、窓の外、青い空にかざす。
指の隙間からもれた光りが
目に刺さって、まぶしい。

あの人は、この猫のこと、好きかな
今度はこれを持って、
私があの人のところへ行ってみようか

そうしたら、あの人も、
こうやって手の上で、その指の先で
なでてくれるのかな

そんなことばかり、考える

放課後、
愛美はあの人を誘って、一緒に帰る。
二人で並んで、
だけど、わざとらしく
二人の距離を、少しあけて

それが、すごくイヤミ

「ねー、紗里奈ー
 そろそろ帰ろー」

振り返った教室では、
松永と紗里奈が、
楽しそうに何かをしゃべっていた。

こうやって、普通に落ち着いて見ることも出来る
カップルもいるのにな

仕方ない、松永には借りがあるから
もう少し待ってやろう

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