いちごのきもち
§32:おじゃま虫
放課後、大希くんと愛美の様子を、
一緒に偵察に行って、からかおうって誘ったのに
紗里奈は、一樹と遠方に買い出しとかで、
きららは酒井地蔵と、図書館デートだって。
図書館デートって、なんだ?
きららは、そうやって言ってたけど
肝心の酒井地蔵さまは、相変わらずの石仮面で
表情を1マイクロも動かさないから
本当のところは、どうだか分からない。
まぁ、いいや。
帰り道、2人が久しぶりに並んで
教室を出たのを見届けると
素早く鞄を片付けて、尾行を始める。
校門を出た2人の姿を、視界に捕らえた。
よし、順調な滑り出し。
「ねぇ、どこに行くの」
背後から、松永の声!
電柱の陰に隠れていた私に、
松永が近寄ってくる。
「ちょ、びっくりした、
静かにしてよ!」
松永の視線は、とても冷たい。
「もしかして、あの2人を尾行する気?」
察しがいいのは認めるが、
今は邪魔しないでほしい。
「そんなことしてて、なにが楽しいの?」
お前は楽しくないだろうが、私は真剣だ。
「違うよ、今から、コンビニ行くの!」
「へー」
2人との距離が離れる。
このまま、西門の最寄りコンビニには
行かないらしい。
どこへ行く気だ? 後をつけねば!
「じゃ、そういうことで」
「一番近いコンビニ、こっちだよ。
今朝、横山さんが言ってた新作ジュースって
こっちのチェーン店、限定でしょ」
「いや、いつもとちがうコンビニにも
冒険してみようかなーと思って。
ほら、人生に冒険って、必要じゃない?」
自分でも、何を言っているのか分からないが
とにかく尾行を続けねばならない。
察しのよすぎる、松永は言った。
「あの2人をつけるなら、俺もつき合うよ。
趣味が悪いとは、思うけど」
「……分かったよ」
なんでお前までついてくるのか実に不可解だが
今はそんなことを考えている余裕はない。
「行こう!」
私は松永を従えて、追跡を再開した。
あの人と愛美は、微妙な距離を保ちながら
夕暮れの道を歩き続ける。
私の脳内で、さっきからこの周辺の地図が
ぐるぐると高速回転している。
2人の行き先が分からない。
どこに行くつもりだろう、
この先にコンビニはあったかな、
カラオケ? 違う。
公園か、喫茶店、ファミレスか、コーヒーショップ、
ハンバーガーか、スイーツのお店……
もしかしたら、そんな女の子目線のところじゃないかもしれない
本屋さんとか、文具店とか。
あの人の、普段の行動が分からないから
私には、あの人のことが何も分からない。
隣を歩く愛美は、どこへ向かって歩いているのか
知ってるのに。
そうだ、スマホで調べよう。
スマホを取り出した私の手を、ふいに松永が抑えた。
「スマホで、なにを調べるの?」
「あの2人の行き先」
「そんなの、調べて分かるんだったら
こうやって尾行する必要、なくない?」
ムッとした私を、松永はどう思ったんだろう。
そんなこと、言われなくたって、分かってる。
この行為が、自虐的な行為だってことも、
ちゃんと知ってる。
だけど、どうしても、そうせざるをえないから
そうしてるんじゃないか!
ねぇ、違う?
「そうだ! 昨日、面白い動画、見つけてさぁ」
松永は、そんな私を無視して
100%完璧で、精巧かつ隙もない
どうでもいい話しを、しゃべり続ける。
「ねぇねぇ、聞いてる?
ほら、これこれ!」
「は? そんなの今、どうでもいいし!」
「じゃなくて、ちゃんと見てって!」
仕方なく、スマホの画面をのぞき込む。
そんなことをしている間に、
2人の姿が、視界から消えた。
私は2人を見失ったことで、
こんなにも落ち込んでいるのに、
真っ暗になった公園で座り込んだ、
松永のくだらない話しは終わらない。
「ねぇ、もう帰ろう?」
これは松永の、私の行動を見るに見かねた
作戦技だったのかなと、
いまにして思えば、そう思う。
2人をわざと、見失わせる作戦。
それが成功してしまったから
私はもう、ここにいる必要もない。
「うん、帰ろうか」
松永が、そう言った瞬間だった。
公園の奥から、走り出た人影
愛美は、泣いていた。