いちごのきもち
§37:さがしもの
夢にも思わなかった。
こんなこと。
大希くんと私が、並んで歩くなんて、
しかも、学園祭のど真ん中を
校内じゃ、スマホの使用が禁止されてるから
学園祭の時でも、生徒は使えない。
この人は、川本くんは、
私とただ歩くためだけに
歩いている。
「あぁ~、もう、
あいつら、見つかんねぇな」
「愛美は、さがさなくていいの?」
聞いてはいけない質問も
今なら出来る。
「あぁ、アイツは、
この時間は、他のことしてるから」
ちらりと腕の時計を見て
またこの人は前を向く。
そっか、どうしよう、
こんなこと、言いたくないのに
どうしても、
こういうことしか
今は出てこない。
「なんか、彼女のいる人と
2人で学園祭まわるのって
誤解されそうで」
「なんで?」
「だって、川本くんも
私と一緒に歩くの、
嫌でしょ」
この人の、苦笑い。
「なんだ、俺ってまだ
横山さんに、
嫌われてたんだ」
「違う、そうじゃなくて」
「なに?」
なに? なにって、なんだろう
私の方が、不思議な気持ち。
「愛美は、嫌がったり、しないのかなーって」
「俺、そういうの
よく分かんないんだよね」
白い、大きな背中、
この人は、人混みの流れから
私をかばうように盾になって
歩いてくれている。
はぐれそうになっても
ちゃんと待っていてくれる。
なのに、
もう愛美のことは
さがさないんだね
「一旦、教室に戻らない?」
「あぁ、そうするか」
私の提案を
すんなり受け入れてくれた。
せっかくだったら
ふたりきりで歩く学園祭、
もうちょっと
違う歩き方をしたかった。
どこにも立ち寄らず、なんにも見向きもせず
ただひたすら一直線に、教室に向かう学園祭。
たどり着いた教室には
愛美と松永がいて……
「あ、おかえり」
って、口を揃えてそう言った。
「ただいま」
「よかったな、
2人とも、見つかって」
「うん」
多分、私が本当に探していたのは
この2人じゃないけど
「じゃ」
私が探していたのは
この人の、本当の気持ち
それでも、この人は笑顔で手を振って
愛美のところへ行ったから
許すことにした。
多分探したって、見つからない。
松永が、じっと私を見下ろす。
「なに?」
何か言いたげな様子の松永を
私が見上げた時だった。
「あー! やっと見つけた!」
きららたち、酒井地蔵のご一行も
教室に戻ってきた。
「もー、どこ行ってたのよぉ!」
きららは、愛美の腕に飛びつく。
「次が私たちの当番時間でしょ。
きららこそ、どこ行ってたのよ」
「そうだけどさぁ~」
きららと愛美が騒ぎ出し、
あの人は、そっと教室を出て行く。
「みなみ」
そんな喧噪をよそに
紗里奈が私に近寄った。
「一緒に学園祭、まわろ」
「うん」
ようやく、無防備に安心して歩ける相手と
歩くことが出来た。
紗里奈と2人きりになったとき、
紗里奈は小声でささやいた。
「みなみ、
愛美と川本くん
別れたんだって」
紗里奈からのお知らせ
「うん、なんか、知ってた」
「知ってたの?」
「なんとなく」
私は紗里奈と2人
混雑するにぎやかな学園祭の廊下を
ただ歩くためだけに、歩いていた。