いちごのきもち
§49:努力の限界
大希くんと、二人で歩く帰り道。
こんな事って、初めてじゃないのかな。
私は凄くドキドキして、
何を話していいのか分からなくて、
もうコンビニなんて、永遠にたどりつかなくても
いいくらいに思ってる。
「なに、松永と、喧嘩でもした?」
「なんで?」
「いや、無理矢理、俺を誘ったりしたから」
この人は、笑いながら
そういうことを、平気で言う。
この誤解だけは、
どうしても解いておかないといけない。
「喧嘩なんか、してないよ」
「あっそう」
「肉まんが発売日だって、言うから
食べたかっただけ」
「ふふ、はいはい」
聞いてない、この人は
人の話しを、絶対にちゃんと聞いてない。
「あのね……」
「あぁ、でも、いいよなー。
お前ら、すごく仲良くってさ。
なんか見てて、めっちゃうらやましいんだ。
微笑ましいっていうか、
単純に、素直にいいなって思えるからさ」
始まった。どうしてこうも
うまくいかないもんなんだろ。
「なんで? そんなんじゃないよ」
「ふふ、だけど、俺には
持ってない世界だからなー。
あー、俺も、彼女とかじゃなくて
好きな子がほしいよなぁ」
知ってる、
この人の目には、私はうつってないって、知ってる。
「か、川本くんも、結構モテると思うけど」
「えぇ? いいよ、そういうの」
「だって、他にもいいねって言ってる子、
いっぱい知ってるよ」
私の言葉に、この人は笑う。
「はは、そんな奴、俺は見たことねーよ」
「そんなことないって、だって」
「なに? なぐさめてくれてるつもり?」
上から見下ろすこの人の何気ない目線が
私には、何よりも冷たく刺さる。
「いいよね、余裕がある人は」
私がここで好きって言ったら
この人はどうするんだろう
私がここで好きって言ったら
友達ですらいられなくなる
私がここで好きって言ったら
もう絶対に、こんな風に二人で歩いてくれない
「余裕なんて、全然ないよ」
震えそうな声を、一生懸命抑えたつもりだったのに
どうしても隠しきれなくて
自分でもびっくりするくらい
その声は震えていて
でも、そういうことだけは、
しっかりこの人に伝わってしまう
「やっぱり、松永となんかあったんでしょ」
この人は立ち止まって、私を見下ろす。
きっと絶対、凄く優しい顔で見てくれているんだろうけど
顔を上げたら、泣きそうで見られない。
「よし! わかった!
特別に今日の肉まんは、おごってやるよ!」
この人は、わざと元気な声を出して
私をなぐさめてくれる。
「俺さ、こういう恋愛相談っての、
苦手だから、話しは聞けないけど
肉まんならおごれる!」
話しなんて、聞かなくていいから
この瞬間だけでも、一緒にいてくれたら
それだけでいい。
私が、黙ってうなずいたら
この人は、私の肩に手を置いた。
「さ、行こうぜ」
触れられた肩が、そこだけが
自分のものじゃないみたい。
「こういうのって、
女友達になら、平気で出来るんだけどなー」
それでもやっぱり、松永と喧嘩とか、
適当な嘘で、この場をつなげなかった私は
今度は私が何かおごるねって、それだけ約束して、
口に入れたもの、全てを飲み込んだ。