いちごのきもち
§6:全部想定内
で、水族館に着くでしょ、先生のチェックを受けるでしょ、
8人の班が、愛美と大希くん、私たちその他組の2つに分かれる。

はい、想定内

まぁ、あいつら、普段から仲いいからね。

高梨愛美はあの人にくっついて離れないし、
きららと一樹はいつも通り、きゃあきゃあ大騒ぎしながら
いちゃついている。

はい、想定内

私は紗里奈と二人で並んで歩いてて
その後ろを、何となく松永くんと酒井くんが
ついてくる。

そうなるよね。

「えーこの魚、なんていうのー」
「しらなーい」
「ここに名前、書いてあるよ」
「本当だ」
「◯◯だって」
「へー」

そうなるよね。

それなのに、距離が離れていたはずのあの人の声が
突然頭上から響いてきたりして、びっくりする。

「横山さんってさ、水族館、すきなの?」

「うん、けっこう好き」

本当はそんなに好きなわけじゃないけど、そうやって言ったらさ、
この人は予想通り、うれしそうな顔をするんだもん。

「あ、やっぱり? そうだと思った」

そりゃそう答えとくでしょー!
えぇ、今日から私は水族館が好きになりました。

「魚って、かわいいよね」

「うん」

この人の指先が、水槽のガラスに触れて
今この瞬間に、彼が見ている熱帯魚になりたいと
私は真剣に思った。

そこへ、一樹の乱入

「あー、二人とも仲直りしてるー」

うるさい、一樹、お前は黙ってろ
私はお前のような、チャラチャラした男は
大嫌いなんだよ!

「ねぇ、なんで横山さんは、
 大希のこと嫌ってたの?」

「嫌ってないし!」

この人は、ため息をつく。

「お前なぁ、せっかく普通に
しゃべってくれてるんだから
 邪魔しにくるなよ」

「ねぇ、なんで嫌ってたの?」

「特に理由はありませんけど」

「あぁ、そう」

一樹が黙った。
ふふん、想定内だ。

「横山さんはね、俺が嫌いなんじゃなくて
 お前が嫌いなんだよ」

「は? マジで?」

「そんなことも、ないですから」

2人がこっちを見る。
私は、変なことは言っていない。

大体、そんなこと聞かれても、
まともに答えられるわけ、ないじゃないか。

まぁ、予想通り、私を無視して
2人でじゃれあい始めたから
私に嫌われてるとか、どうとか、
本気で気にしてるわけじゃないことぐらい
分かってるけどね。

「ねー、早く次行こー」

高梨愛美が、じゃれあっているあの人と一樹を促す。
本当に、いいタイミングでやって来る。

私は、紗里奈の隣に戻って
ほっと一息いれる。

「ねぇ、本当に、なんで
川本くんのこと嫌ってるの?」

「うん、だから、それは誤解だって」

「本気で?」

「本気で」

「そうなんだ、ならよかった」

紗里奈が、本当に安心したように笑った。
ありがとう、本気で心配してくれて
大好きだよ、紗里奈。

「イルカショーの前に、
 お昼食べよー」

きららが言った。

平日昼間の水族館
小さい頃に来た記憶そのままなのに
なんだかやけに小さく感じて

ガラガラの食堂で
みんなと一緒にお昼を食べた。

「横山さんはね、男子が苦手なタイプなんだよ」

松永くんが、眼鏡の奥を光らせて
唐突にそんなこと口にするから
一斉に注目を集めた私は、
すっごく、びっくりしてる。

「今日みてて、そう思った」

「そ、そうかな?」

「そうだと思う」

「そんなこと、ないと思うけど」

あの人まで、じっとこっちを見てる。
あぁ、もうやめて、
そんなに見ないで!

「ほら、ね」

自分でも分かるくらい
真っ赤になった顔を、
隠し通すことなんて、出来ない。

「ほんとだ」

そうやって、なんとなくみんなが笑うから、
そういうことに、なってしまう。

「よかったー。俺が、なにか悪いことしたわけじゃ
なかったんだ」

「は?」

「ちょっと、安心した」

その、さわやかな笑顔を向けた先は
もしかして、私?

「よかった」

ねぇ、本当にそう思ってる?
安心したとか、よかったとか、本気?

「じゃあ、これからも
 普通に話しかけて、いい?」

絶句。
心臓が止まりすぎて、息が出来ない。

言葉を失った私に
松永が、よけいな口を挟む。

「ほら、ね」

えぇ、この場の雰囲気が和むのであれば
私はいくらでも笑いものになりますよ。

その後のイルカショーの内容なんて
全く記憶に残ってないし、
高梨愛美とあの人がいちゃついてたのだって
もう、どうでもよくなってる。

「じゃあ、またね」

駅で解散、
ようやく一人になって
意識を取り戻した。

こんな展開、想定内?
明日からの、学校が怖い。
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