いちごのきもち
§62:謎は全て解けた
本当に、奇跡って起こるのかもしれない。
と、思った。
と、思った私が
バカだっただけ。
次の日、一日ドキドキしながら過ごした。
早く放課後にならないかと思ってた。
大希くんは相変わらす素っ気なくて
昨日の台詞なんて記憶に残ってないかくらいに
一言も口をきかないし、目もあわさない。
だけど、いざ学校が終わって、
教室を出ようとしたそのタイミングで
誰よりも早く、あの人が私の隣に並んだ。
「一緒に、帰れる?」
あぁ、顔が赤くなってるのが自分でも分かるよ
でもね、どうやっても止められないんだこれは
「うん、いいよ」
そしたらこの人は、なんだかほっとしたような顔をして
一緒に歩き出した。
「よかった」
2人で一緒に、靴を履き替え、
玄関で待ち合わせて歩き出す。
「あれ? 大希、
横山さんと帰るの?」
そこに待っていたのは
愛美だった。
「ふーん」
愛美は、私の全身を
上から下までくまなく観察する。
愛美の横には、あの時の女
愛美の彼氏繋がりの、違うクラスの女
「今日は、優子と一緒に
帰ろうと思ってたのに」
愛美の横で、優子と呼ばれた女は
にこやかな表情を崩さない。
「あー、残念、でも、約束してたわけじゃ
なかったし」
「大希くん、今度
紹介するっていってた女の子
連れて行くから
大希くんも友達誘っといてね」
「うん、分かった」
この人は、平気な顔をして
愛美と連れの女に手を振る。
その姿が見えなくなってから、
盛大なため息をついた。
私は今、相当にまぬけな顔をして
この人を見上げている。
それに、この人は困ったように顔を背ける。
「いや、こういうの、苦手でさ」
だからって、私を虫除けに使ったってこと!? とか、
なんだかんだと言いたいことは山ほどあるけど
とにかくこれだけは言っておく。
「なら最初に、そう言ってくれればいいのに」
「だから、昨日言おうと思ってたんだけど
言いにくくて」
だから昨日、あんなにまごまごしてたのか!
腹が立つし、言いたいことは
この世に巣くう、蟻の数よりたくさんあるけど
とにかくこれだけは言っておく。
「ひどくない?」
「だから、黙ってたのは謝るって
でも、他に頼めそうな女友達がいなくってさ
みなみちゃんなら、助けてくれると思ったんだよ」
一生懸命、謝ってくれても
全然うれしくない。
「人助けだと思って、助けて」
めまいがする。昨日の私のドキドキを返せ
「でも、どうしようって思った時に
一番に頭に浮かんだのが
横山さんだったんだから」
そんなことをカワイイ顔で言われても、
言われた私の方が、泣きそうだ。
「もういいよ、別に」
「あ、お礼に、肉まんおごってあげるから!
肉まん!
松永とさ、よく一緒に食べに行ってるでしょ?」
簡単な、餌で釣れる女だと
この人にとっては、そんなものでしかない。
「ね、行こ!」
「うん」
それでも逆らえないから、
私はこの人についていく。
「そんな、怒るなよ~!」
この人は、私の頭をがしがしとかき回して
さらに傷口を広げておくことも欠かさない。
「ちょっと、しばらくの間
お願いだから、一緒に帰って」
拝まれたから、了承する。
逆らえないから、従う。
所詮世の中は、こんなものだ。