Only Three Months
「混雑が予想されます。
 降りる準備をお願いします」


サーは荷物を持っていたから、その確認をし始めた。
オレとエドは特に何も持たずに来たから、そのまま待ってるだけだった。


「すでに舞踏会は始まっているはずだ。
 上手くヴィクトリアの貴族たちに紛れ込めるだろう。
 アリーから声を掛けられるまで、普通にしていてくれてかまわない」
「はい」


エドの顔を見た。
同じことを思っていたらしく、口角が少し上がってしまう。

庶民だったオレたちは、普通の舞踏会を知らない。
映像でこういうものっていうのは知っている。
それでも、いくらダンスができても、実際の高貴な人たちばかりの舞踏会は初めてだ。


「申し訳ありませんが、進めるのはこちらまでです」
「ありがとう、オリバー」


この車には、小さなアルバートの旗が掲げられている。
オレたちが、アルバートから来た証。
そして、ヴィクトリアの中心部に近いところには入れない証。

サーの後ろについて、アルバート城のように広い前庭を歩く。

アリーは、オレのことを待ってくれているだろうか。
会いたいけど、不安で。

昨日の夜のざわざわといした落ち着きのなさはない。
それでもまだ鼓動は速い。
これを鎮めるのは、アリーしかいない。


ヴィクトリア城の正面玄関。
ドアマンに声をかけられる。


「招待状を拝見いたします」
「はい」


サーが招待状を見せると、ドアマンは笑ってオレたちを通してくれた。
城の中はカラフルなドレスとタキシードであふれていた。
ついこの間まで庶民として質素に過ごしていたオレたちが、なじめる場所ではなさそうだ。

王座を見る。
国王と王妃の間、王座の中央に、アリーは座っていた。
座っているというより、腰掛けている。

アリーは笑って、ホールで踊っている人たちを眺めている。
オレには、アリーの笑顔の違いが分かる。
いわゆる王族スマイル、作り笑顔だ。
オレの前で見せていたのとは違う。
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