Only Three Months
「それが、中学くらいのとき。
 オレがひとり暮らしするようになってから。
 家はもともとこの家に住んでて、叔母が出ていった。
 本当は引っ越ししたかったけど、エドの家も近かったから」
「今は?」
「最近は全然。
 傷跡はあるけど」


…しまった。
言うんじゃなかった。
傷跡があるのはアリーも一緒だ。


「アリー?」
「そんな軽く言わないで」
「ごめん」
「私に悪いって思ってるんでしょ」
「え」


図星。
それ以外に、謝る対象なんてないだろ?


「今まで受けてきたことの辛さは、本人にしか分からないの。
 なんで、そんなに軽く言えるの?
 もっと、辛かったはずの出来事でしょう?」
「慣れたからかな。
 もうずっと学校での扱いはこうだから」
「そんな風に言わないで!」


アリーが怒ってる。
びっくりして、アリーを見る。
こんな表情のアリー、見たことない。


「辛いことに慣れるなんて、普通じゃないわ!
 私にも、慣れろって言うの?」
「言うわけないだろ」
「ならなんでそんなに平然としてられるのよ。
 感覚が麻痺してるとしか思えないの、マイク」
「なんでそんなに怒ってるんだよ」
「マイクが自分のことを諦めてるからよ!」


…言い返す言葉が見つからない。
オレが、オレを諦める?


「当然のように自分を下げて話してた。
 こういう風に育ったから、仕方ないって感じで。
 でもね、マイクは私のこと、『私』として見てくれた初めての人よ。
 王族のうちの、姫としてじゃなくて、ひとりの人として話してくれた。
 王族嫌いのマイクにその自覚があるかは分からないけど」


自覚はない。
普通の王族じゃないって思って、気になったのは確か。


「マイクは、ちゃんと人のことを見れる人。
 だから、自分のこともちゃんと分かるはずなの。
 マイクなら、大丈夫」


こんなこと、言われると思ってなかった。
肩の力が抜ける。
今になってやっと、背中をなでられていることに気付く。


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