三音糖 ー森を駆ける少女ー
少女達は何を目指す?
1走ー1
「ハッ…ハッ…ハァ…」
(あと少し…あと少しだから…)
やっとの事で目の前の尾根を乗り越えた。走りながらもパッと地図を広げて現在位置を確認する。
そして、目指す地点までのイメージを瞬時に頭に浮かべる。
(尾根を辿って、ピーク前の沢に入って、その底の穴…)
少しすると目の前にまた登りが立ちはだかる。しかし、少女はそれを見た途端、左の沢へ入り込んだ。
そして、沢底まで下りた少女は走りながらも必死にまわりを見回し、白とオレンジの三角柱状のポストを探す。
それと同時進行で次の地点へのルートも考える。
目に映るのはまばらに生えた木と、行く手を阻む藪。その中にオレンジ色を見た。
一気にその方向へと加速し、そのポストの上に付いている赤いユニットへ右手を伸ばし、しっかりとEカードをタッチする。
「…34…おっけ。次っ!」
番号を確認すると同時に次の地点の方向へと体を回し、また沢底を走りだした。
「よしっ、ラスト!」
ゴール前最後のポストをタッチした少女は地図を見ずに必死に最後の力を振り絞り、全力で道を駆け抜ける。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「ラストでーす!パンチングフィニッシュでーす!」
目の前から自分を捉えたスタッフがゴールへと誘う。
そして、スタッフの手に置かれた赤いユニットへとまた右手を伸ばし、カードをタッチする。
「ハァ…ハァ……ふぅ…」
「お疲れ様でーす。会場までは青色テープの誘導です。読み取りも会場でーす。」
指示に従って少女はそれを辿る。
ゴールから20分。やっと会場の市民会館へと到着した。
泥まみれになった靴を脱ぎ、泥を持ち込まないようにと靴を置いて中に入る。入り口に1番近いところに置かれた長机に近寄りスタッフに話しかけた。
「読み取り…いいですか?」
「はい、どうぞ。」
少し緊張しながらカードをその読み取り機の上へのせる。
「えっと、35分21秒です。お疲れ様でしたー。」
ホッと胸を撫で下ろし、自分の荷物を置いた場所へと足を運んだ。
「あっ!あかりちゃーん、お疲れー!」
「まい、もう帰ってたの?早っ」
「あかりん、お疲れ。タイムは?」
「えっと、35分21秒」
「うわー…2分負けたぁ~」
妹が悔しそうに嘆く。
「なおはどうだった?」
「私は35分25秒。4秒差だよ。もー…いっつも勝てないんだけど!!」
ぷくぅーっと頬を膨らませ朱莉に抗議する菜穂。
しかし、その表情は楽しそうで笑顔だった。
「でもね、これでも少しミスしちゃったんだ。3から4なんだけど、これどういった?」
朱莉は地図を出し、そのレッグを指差した。
「私は、えっとここの尾根を…こう…」
そういって、菜穂が鉛筆の先でルートを描く。
「で、最後はこの分岐から直進したよ。あかりんはどういったの?」
「うーん、最初は道を辿って右の植生界を見ようと思ったんだけど…」
そういって菜穂の指したルートと違うルートを鉛筆で辿りだす。
「登り考えたらあかりちゃんのルートが1番いいけど、やっぱ、なおちゃんのルートが正解じゃない?」
そういって3人の少女はうーん…と悩む。
悩んでいる3人に運営の人が近づいてきた。
「あのー、椎音さんと天音さん。表彰対象なので一度来てもらえますか?」
「あっ、中下さん!お久しぶりです。」
「どうも、いやー来てくれてありがとうございます。」
「やっぱり誘われて行かないのはないですからね。」
「椎音さんらしいです。」
そういって、中下さんに2人が付いていく。
妹はそんな2人に手を振っていた。
ゴールも閉鎖され、おやつの時間の午後3時過ぎ。
会場には競技を終え、ゆっくりと寛いだり、着替えたりする参加者でざわざわとしていた。
そして、スタッフがステージに立ちマイクを持って喋りだした。
「会場のみなさんに連絡します。今から表彰式を始めるので表彰対象の方はステージ前にお集まりください。」
そう言うと、参加者はステージの方へとより、ステージへと目を向けた。
3人もステージ近くまで移動して、喋りながら待つ。
ステージにはぞくぞくと賞品や表彰状が運びこまれ、それが終わるとまたマイクを持ってスタッフが喋りだす。
「はい、では準備が出来たので始めます。最初はショートからいきますね~、じゃ表彰対象の方はステージの上へ。」
「…はい、ありがとうございました。じゃあ最後に1番上のクラス、ロングの表彰対象の方上へどうぞ。」
朱莉と菜穂は立ち上がり、ステージへと上った。
「ではまず3位の方。えー、神奈川高校オリエンテーリング部の戸田 隼人さん。おめでとうございます。」
そういって、その男性にスタッフがメダルと表彰状を渡す。
「えーっと、3位の景品はですね~…デフケースになります。」
そして賞品を手渡す。パチパチと会場から拍手が起こる。
「では、一言。」
「はい、えー…まぁ前半少しミスした所があったんですけど、なんとか最小限に抑えられて、まぁ結果も3位ということでよかったです。だけど、ワンツーを三音糖にとられたのは少し悔しいです。」
「はい、次は三音糖を越せるよう頑張ってください。ありがとうございましたー!」
「続いて、2位。えっと、三音糖の天音 菜穂さん。はい、おめでとうございます。」
菜穂の首にメダルが掛けられ、表彰状が渡される。
「えー、2位の景品も、同じくデフケースになりまーす。」
少しの笑いと多くの拍手が起こった。
「はい、では一言。」
「えーと、また朱莉に僅差で負けてしまったんですけど、まぁ、はい。デフケースちょうど壊れかけていたので新しいのが貰えてよかったです。次は三音糖で表彰を独占したいと思います。」
「はーい、是非使ってくださいねー。ありがとうございましたー!」
また拍手が沸き起こる。
「最後に1位です。同じく三音糖の椎音 朱莉さんです。おめでとうございます。」
会場から一気に盛大な拍手が送られる。
朱莉の首に同じくメダルが掛けられ、表彰状を手渡される。
「さて、賞品ですが、2位3位でデフケースという事はもちろん1位の商品が豪華である証拠ですよね?…なんと、上のウィンドブレーカーです!」
オォー!!っと声があがる。
「では、一言どうぞ。」
「はい、まぁいつも通り1位を取れて良かったです。今度、三音糖が主催の甘党杯を開くので良かったら来てください!ありがとうございます。」
「はい、余談になりますが、甘党杯は私たち関東OCも協力させて頂くのでよければ来てください。3人ともありがとうございましたー!もう一度拍手をお願いします。」
会場がわっとまた湧き上がる。
「これで第26回関東杯を終わります。参加者の皆様、ありがとうございました。」
一礼してスタッフがステージから降りると、参加者はゾロゾロと立ち上がり出口へと向かっていく。
「おめでとー!あかりちゃん、なおちゃん!」
「ありがとう、次は三音糖で独占しようね。」
「あかりん、その前に運営があるでしょ?」
「そうだね、じゃあ帰ろう」
3人は荷物を持って並んでバス停まで歩き出した。
もう夕方4時を回っていた。
滝山第3中学校。
学校のすぐ後ろには城跡が聳え立ち、目の前は大きな道路。
駅から離れているので、ここに通う学生はほとんどが学校から徒歩30分圏内に家がある。
偏差値もそこらの中学と変わらない、そんな普通の学校。
しかし、そこには他ではなかなか見ない部活があった。
「この春に活躍した部活を紹介します。えー、まずオリエンテーリング部の椎音 朱莉さんと天音 菜穂さんが第26回関東杯…東日本のジュニア選手権ですね。それぞれ1位と2位を独占。10月に行われる全日本選手権のU18への切符を手に入れました。」
体育館に響く校長の声。どこか嬉しそうで、誇らしそうな声。
オォー!!という歓声とともに拍手が起こる。一部では「またオリエンテーリング部が…」とどこか羨ましそうな目で、しかし尊敬する視線を名前を呼ばれた2人に向けようとしていた。
1人呼ばれなかった音倉 妹も悔しそうにしながらも、2人に向けて拍手を送った。
「ハッ…ハッ…ハァ…」
(あと少し…あと少しだから…)
やっとの事で目の前の尾根を乗り越えた。走りながらもパッと地図を広げて現在位置を確認する。
そして、目指す地点までのイメージを瞬時に頭に浮かべる。
(尾根を辿って、ピーク前の沢に入って、その底の穴…)
少しすると目の前にまた登りが立ちはだかる。しかし、少女はそれを見た途端、左の沢へ入り込んだ。
そして、沢底まで下りた少女は走りながらも必死にまわりを見回し、白とオレンジの三角柱状のポストを探す。
それと同時進行で次の地点へのルートも考える。
目に映るのはまばらに生えた木と、行く手を阻む藪。その中にオレンジ色を見た。
一気にその方向へと加速し、そのポストの上に付いている赤いユニットへ右手を伸ばし、しっかりとEカードをタッチする。
「…34…おっけ。次っ!」
番号を確認すると同時に次の地点の方向へと体を回し、また沢底を走りだした。
「よしっ、ラスト!」
ゴール前最後のポストをタッチした少女は地図を見ずに必死に最後の力を振り絞り、全力で道を駆け抜ける。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「ラストでーす!パンチングフィニッシュでーす!」
目の前から自分を捉えたスタッフがゴールへと誘う。
そして、スタッフの手に置かれた赤いユニットへとまた右手を伸ばし、カードをタッチする。
「ハァ…ハァ……ふぅ…」
「お疲れ様でーす。会場までは青色テープの誘導です。読み取りも会場でーす。」
指示に従って少女はそれを辿る。
ゴールから20分。やっと会場の市民会館へと到着した。
泥まみれになった靴を脱ぎ、泥を持ち込まないようにと靴を置いて中に入る。入り口に1番近いところに置かれた長机に近寄りスタッフに話しかけた。
「読み取り…いいですか?」
「はい、どうぞ。」
少し緊張しながらカードをその読み取り機の上へのせる。
「えっと、35分21秒です。お疲れ様でしたー。」
ホッと胸を撫で下ろし、自分の荷物を置いた場所へと足を運んだ。
「あっ!あかりちゃーん、お疲れー!」
「まい、もう帰ってたの?早っ」
「あかりん、お疲れ。タイムは?」
「えっと、35分21秒」
「うわー…2分負けたぁ~」
妹が悔しそうに嘆く。
「なおはどうだった?」
「私は35分25秒。4秒差だよ。もー…いっつも勝てないんだけど!!」
ぷくぅーっと頬を膨らませ朱莉に抗議する菜穂。
しかし、その表情は楽しそうで笑顔だった。
「でもね、これでも少しミスしちゃったんだ。3から4なんだけど、これどういった?」
朱莉は地図を出し、そのレッグを指差した。
「私は、えっとここの尾根を…こう…」
そういって、菜穂が鉛筆の先でルートを描く。
「で、最後はこの分岐から直進したよ。あかりんはどういったの?」
「うーん、最初は道を辿って右の植生界を見ようと思ったんだけど…」
そういって菜穂の指したルートと違うルートを鉛筆で辿りだす。
「登り考えたらあかりちゃんのルートが1番いいけど、やっぱ、なおちゃんのルートが正解じゃない?」
そういって3人の少女はうーん…と悩む。
悩んでいる3人に運営の人が近づいてきた。
「あのー、椎音さんと天音さん。表彰対象なので一度来てもらえますか?」
「あっ、中下さん!お久しぶりです。」
「どうも、いやー来てくれてありがとうございます。」
「やっぱり誘われて行かないのはないですからね。」
「椎音さんらしいです。」
そういって、中下さんに2人が付いていく。
妹はそんな2人に手を振っていた。
ゴールも閉鎖され、おやつの時間の午後3時過ぎ。
会場には競技を終え、ゆっくりと寛いだり、着替えたりする参加者でざわざわとしていた。
そして、スタッフがステージに立ちマイクを持って喋りだした。
「会場のみなさんに連絡します。今から表彰式を始めるので表彰対象の方はステージ前にお集まりください。」
そう言うと、参加者はステージの方へとより、ステージへと目を向けた。
3人もステージ近くまで移動して、喋りながら待つ。
ステージにはぞくぞくと賞品や表彰状が運びこまれ、それが終わるとまたマイクを持ってスタッフが喋りだす。
「はい、では準備が出来たので始めます。最初はショートからいきますね~、じゃ表彰対象の方はステージの上へ。」
「…はい、ありがとうございました。じゃあ最後に1番上のクラス、ロングの表彰対象の方上へどうぞ。」
朱莉と菜穂は立ち上がり、ステージへと上った。
「ではまず3位の方。えー、神奈川高校オリエンテーリング部の戸田 隼人さん。おめでとうございます。」
そういって、その男性にスタッフがメダルと表彰状を渡す。
「えーっと、3位の景品はですね~…デフケースになります。」
そして賞品を手渡す。パチパチと会場から拍手が起こる。
「では、一言。」
「はい、えー…まぁ前半少しミスした所があったんですけど、なんとか最小限に抑えられて、まぁ結果も3位ということでよかったです。だけど、ワンツーを三音糖にとられたのは少し悔しいです。」
「はい、次は三音糖を越せるよう頑張ってください。ありがとうございましたー!」
「続いて、2位。えっと、三音糖の天音 菜穂さん。はい、おめでとうございます。」
菜穂の首にメダルが掛けられ、表彰状が渡される。
「えー、2位の景品も、同じくデフケースになりまーす。」
少しの笑いと多くの拍手が起こった。
「はい、では一言。」
「えーと、また朱莉に僅差で負けてしまったんですけど、まぁ、はい。デフケースちょうど壊れかけていたので新しいのが貰えてよかったです。次は三音糖で表彰を独占したいと思います。」
「はーい、是非使ってくださいねー。ありがとうございましたー!」
また拍手が沸き起こる。
「最後に1位です。同じく三音糖の椎音 朱莉さんです。おめでとうございます。」
会場から一気に盛大な拍手が送られる。
朱莉の首に同じくメダルが掛けられ、表彰状を手渡される。
「さて、賞品ですが、2位3位でデフケースという事はもちろん1位の商品が豪華である証拠ですよね?…なんと、上のウィンドブレーカーです!」
オォー!!っと声があがる。
「では、一言どうぞ。」
「はい、まぁいつも通り1位を取れて良かったです。今度、三音糖が主催の甘党杯を開くので良かったら来てください!ありがとうございます。」
「はい、余談になりますが、甘党杯は私たち関東OCも協力させて頂くのでよければ来てください。3人ともありがとうございましたー!もう一度拍手をお願いします。」
会場がわっとまた湧き上がる。
「これで第26回関東杯を終わります。参加者の皆様、ありがとうございました。」
一礼してスタッフがステージから降りると、参加者はゾロゾロと立ち上がり出口へと向かっていく。
「おめでとー!あかりちゃん、なおちゃん!」
「ありがとう、次は三音糖で独占しようね。」
「あかりん、その前に運営があるでしょ?」
「そうだね、じゃあ帰ろう」
3人は荷物を持って並んでバス停まで歩き出した。
もう夕方4時を回っていた。
滝山第3中学校。
学校のすぐ後ろには城跡が聳え立ち、目の前は大きな道路。
駅から離れているので、ここに通う学生はほとんどが学校から徒歩30分圏内に家がある。
偏差値もそこらの中学と変わらない、そんな普通の学校。
しかし、そこには他ではなかなか見ない部活があった。
「この春に活躍した部活を紹介します。えー、まずオリエンテーリング部の椎音 朱莉さんと天音 菜穂さんが第26回関東杯…東日本のジュニア選手権ですね。それぞれ1位と2位を独占。10月に行われる全日本選手権のU18への切符を手に入れました。」
体育館に響く校長の声。どこか嬉しそうで、誇らしそうな声。
オォー!!という歓声とともに拍手が起こる。一部では「またオリエンテーリング部が…」とどこか羨ましそうな目で、しかし尊敬する視線を名前を呼ばれた2人に向けようとしていた。
1人呼ばれなかった音倉 妹も悔しそうにしながらも、2人に向けて拍手を送った。
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