ノラと呼ばれた男【壱】
◆◆◆

【竹松side】



ふぅっと、息を吐けばタバコの煙が空へと上って消え。

匂いだけが宙を舞う。






「それ、美味い?」

ベランダに居た俺に、そう声を掛けて来たのは、先程まで楽しげに姫川と喋っていた搖で、

「吸ってみるか?」



「俺、苦いの嫌い」




「……あっそ」





大の男が、苦いの嫌いで甘党派って面白いよな。他の奴等からしたら、これがギャップ萌とか何とか言うらしいが、

今日、知った事がある。



「姫川には素なんだな」

他の連中が知る湯川 搖は、冷徹そのもの。もしそこに死体があっても見向きもせずに踏み潰す、と言われた男


だからこそ、甘党なのはギャップになるのだが姫川に見せた顔は湯川 搖の素顔だった。



「ま、一華はね警戒するだけ無駄」


「……」


「気づいたら‘’ここ‘’にいて、気づいたら居なきゃいけない存在になってる」






とん、っと拳を胸に当てる搖
その顔は凄く穏やかで………………、






小さい声で、‘’いつか分かるよ‘’と呟く搖を横目に、


タバコを口にした






前から聞いていた、こいつの大切な奴の話し。それが姫川 一華で、


偶然、俺らの学校に入学してきて、


数日経たない内にクラスに溶け込んで、覇王と親しくなった奴







女。と言うには、まだ幼さが残る顔


笑うと目尻が下がり、えくぼが出来る。

ごく一般の……どこにでも居るような奴






「俺さ……昔、お前に言ったじゃん?」



「…………」



「笑顔で居てほしい奴が居るって」
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