ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「だから……逃げるなよ、な……」
朔は一生懸命まぶたを開けようとして、何かを話そうとする。けどそれは言葉にならなくて、小さい子供のようにそのまま寝てしまった。
ご飯も食べてないし、起きたばかりだから話していて疲れちゃったのかも。そっと布団をかけなおす。モニターから胸につながる電極を外さないように気をつけながら。イスに座ってぽたぽたとゆっくり落ちる点滴を見ながら、ぼんやりする。
私、この前のケンカのとき朔にひどいことを言った。それなのに、謝るのを忘れてた。
「逃げるな、か……」
朔の言うことはいちいち正論すぎて、返す言葉も見つからない。
「そんなの、わかってるよ」
どんなにしんどくたって、私は朔と同じ母親のお腹から同じ時間にこの宇宙に産まれてしまった。それはもうどうあがいたって変えようがない事実だ。
だけど、そのあとは本人の頑張り次第。双子だから比べられてしまうのは仕方ない。だからもう何も気にしない鈍感さを身に付けるか、朔を追い越すぐらいの努力をするかだ。
そのどちらもできない、弱くて不器用な自分が嫌いだ。何も努力しないで、ありのままを愛してほしいなんて、ただの我がままなのにね。
想史に叩かれた頬がじんと、今更痛んだ。
やっぱり、こんな残酷な世界嫌だ。辛いのは今だけかもしれないけど、今この時期を充実して過ごしたいと思うのは浅はかなこと? だって高校生の私は、もう戻ってこないんだよ?