ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「朔……」
朔は、行くなと言った。戻れなくなるから、と。
「でも私、やっぱり」
全てが優しかった、あの世界がいい。たとえ今だけでも、いつか心変わりしてしまうとしても、想史と一秒でも長く手を繋いでいたい。
あの世界なら。想史が優しく笑いかけてくれるあの世界なら。もっともっと、頑張れると思うんだ。頑張る力を、もういっぱいもらったもん。明日への希望がなきゃ、頑張る力すらわかない。
「大丈夫だよね。こっちのみんなは、朔さえいれば」
私がふっといなくなったら、みんなびっくりするだろう。でもすぐに諦めて、それが自然なことと思うようになるに違いない。私は朔の影。日が当たれば消えてしまう。
「だからね、早く元気になるんだよ。朔を大好きなみんなのために。ね……朔」
あっちに行ってすぐはね、朔がいなくてビックリしたんだよ。しばらくよく眠れなかった。でも大丈夫だったのは、またどこかで会えると何となく思っていたから。
もしあの世界が夢じゃなくて、本物の並行世界なら。あっちに行きっぱなしになってしまえば、朔とはもう会えない。