ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「瑠奈、お腹空いたでしょ。下の売店で好きなもの買っておいで」
お母さんはそう言って私に千円札を渡す。けど、やっぱり顔の腫れには気づかないみたいだ。
「お母さんたちは?」
「コンビニで買ってきたよ。でも瑠奈は何がいいのかわからなかったから」
適当でいいのに。なんでもいいから、私のことを思って選んでくれたら、それで。
胸に黒いシミが広がっていく。これしきのことでモヤモヤするなんて、ほんと私って心が狭い。
「……朔と話できたしさ、もう帰って良い?」
バスを使えば、一人で家まで帰れないことはない。バス停は病院の自転車置き場の真ん前だし。ただ本数が少ないから、すんなり帰れるか微妙だけど。
「そうね、瑠奈は明日も学校だし」
お母さんはあっさり了承。さすがにお父さんは難色を示した。
「いや、こんな夜中に危ないだろ。お父さんと一緒に帰ろう」
「ひとりで大丈夫だよ。今日はゆっくり一緒にいてあげて。じゃあね」
一方的に言うと、すぐに病室を出た。お父さんと一緒では都合が悪い。私は、確かめなきゃならないことがあるんだから。
これからあの公園のすべり台に昇ってみる。そこで月が二つに見える不思議な現象に出会えたなら──もう一度、あの夢を見られるかもしれない。朔の言う通りなら、あの世界に行けるかもしれない。