ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
幸い、それほど待たずにバスに乗ることができ、九時前には家と公園のちょうど中間にあるバス停に着くことができた。
半袖の上に薄い上着を着てちょうどいいくらいの涼しい風が吹いている。髪を揺らし、家ではなく公園の方へ向かった。月は私の正面にある。
もしあの世界が、やっぱり並行世界なんかじゃなく、私が望んで見ただけの夢だったら。私はすべり台の上で寝ているただの不審者よね。本気の不審者に見つかったらひどいことになってしまうかも。
でも、そんなこともうどうでもいい。夢だろうが実在する世界だろうが、こっちに帰ってこなければいいだけの話だ。
そう考えていて、はたと足を止める。朔はあっちの世界に行ったら戻れなくなると言った。でも、夢なら、目を覚ませば済むこと。だけど戻れなくなるってことは? 魂が体から離れて、どこかに行ってしまうってこと?
背筋がぞくりと震えた。そうなったら、私の身体はどうなる? この世界で死を迎えるってことなの?
ぶるぶると首を横に振る。考えたって仕方ない。答えはいつまでたっても出ないのだから。
私はこの世界を捨てると決めた。心が離れようが体が離れようが、同じこと。
決心して今度こそ歩き出した、そのとき。